講談師
田辺いちかさん(本名:帆足桃子:高49期)


Profile田辺いちかさん

1997年 八幡高校卒業(高49期)
京都府立大学国文学中国文学科(現:日本・中国文学科)入学
2000年 在学中に中国・長安大学へ日本語教師として赴任
※2001年に京都府立大学は卒業
2001年 帰国 大阪で演劇を勉強
2003年 東京のプロダクションに所属し、舞台俳優と声優の活動を始める
2014年 講談師田辺一邑(たなべいちゆう)氏に弟子入りし、現在、田辺いちかとして前座をつとめる

八高卒業後は京都府立大学文学部国文学中国文学科に進学。大学4年の時、姉妹校である長安大学で日本語教師の募集があり、中国に渡る。2001年に帰国し、大阪で演劇を勉強したのち上京し、舞台俳優と声優の活動を行う。2012年講談師田辺一邑師匠と出会い、2014年に弟子入り。現在は田辺いちかとして寄席や演芸場で、前座として活動中。大蔵中学出身。


2018年5月某日。上野広小路亭にて、女性講談師として活動する田辺いちかさんを取材しました。一人前になるまで平均して15年という厳しい芸の道に35歳で入門したいちかさん。それほどまでに彼女を惹きつけた講談の魅力、さらに関東総会(講談を披露予定)への意気込み等についてお話を伺いました。

まずは教えて!「講談」とはどんなものですか?

講談の特徴は? 落語とはどう違うのですか?

落語も講談も日本の伝統話芸ですが、落語と違って講談は、目の前に「釈台」と呼ばれる小机を置きそれを「張り扇」という小道具で叩き、パパン!という音を響かせ、独特のしゃべり調子で軍談・仇討ち・金襖物・俠客伝・世話物などさまざまな物語を語るのが講談の特徴です。


33歳で講談と出会い、35歳で入門。芸の道を究めるため、今は精進の日々でございます。

講談の世界に入るまではどんな人生を送られていたのですか?

小さい頃から、日本の文学の古い物語に興味があり、一方で表現することも大好きで高校時代は図書館と演劇部の部室に入り浸って過ごしました。卒業後は京都府立大学文学部国文学・中国文学科に進学しました。ところが、卒論を書いている途中で自分は研究者には向いていないことに気付いてしまったんです。私自身は物語からいろいろ想像を膨らますのが楽しかったのですが、学問はあくまで事実を追究するもの。卒論はすっかり「読み物」になっており、担当教官からはこっぴどく怒られまして・・・。ちょうどその頃、姉妹校の長安大学で日本語教師の募集があり、気持ちの切り替えをしてみたい思いもあって中国へ渡りました。1年後に帰国し、自分がやりたいのは表現だと改めて確認し、大阪で芝居の勉強をした後、上京して10年ほど洋画の吹き替えや舞台女優を経験しました。

講談との出会いについて教えてください

講談との出会いは、33歳の時です。あるとき、芝居の勉強のために某劇団のワークショップに出かけたところ、参加者に妙に上手い人がいたんです。表現の世界にいて上手な方ともたくさん接してきた私でしたが、それでも耳にすっと入ってくる語りがなんとも魅力的で。それが現在の師匠である田辺一邑(たなべいちゆう)でした。講談師であることがわかり、会を見に行ったところ、「これだ!」と衝撃を受けまして。古い物語の伝承、新しい話題からの創作、独特な表現・・・。高校時代から自分のやりたかったことのすべてが揃っていたんです。それから2年ほど演芸場に通い、35歳になったとき声優も舞台もすべて一旦やめて弟子入りしました。「生きてるうちは可能な限りやりたい」なんて思えたのは生まれて初めて。そうなったらもうやるしかないですよね?


「高座に上がっているときが一番幸せ」と、いちかさん。(撮影=山本寿美子)


好きな道とは言え、修業は大変ですよね?

指導は厳しく、辛いこともありますが、自分のやりたいことを学べて、先輩方は惜しみなく教えてくださる。下働きとして報酬もいただける。どれだけありがたいことかと思いますし、厳しい中でどうやって生きていくかを見出すのも勉強だと思っています。
でもやはり、高座の上にいるときは一番幸せです。4年目になり、お客様の反応を見て、間やセリフを変えてみる余裕も少し出てきて楽しいと思えることも多くなってきました。もちろん、イマイチの時もしばしばありますが。土地柄やお客様の年齢、雰囲気で、同じネタでも受け方が全く違いますから、さまざまな状況に柔軟に対応できるようになるのも一つの課題ですね。今はまだ自分の名前で人を呼べる立場でなく、責任もないですが、これから二つ目、真打ちと上がっていった時に、違う緊張、責任感が生まれるはず。そこからが本当の勝負だと思っています。
将来は古い面白い話をどんどん掘り起こして、多くの人に伝えていきたい。また、若い人にも講談の魅力を伝えていく動きも積極的に行っていきたいですね。


小中学校への学校公演も行い、講談の魅力を伝えています。

いちかさんをそれほどまでに魅了した講談。楽しみ方を教えてください。

初心者におすすめの題目などはありますか?

まずは自分が知っているお話から入るのがいいのではないでしょうか。誰もが知っている「水戸黄門」「大岡越前」「柳生十兵衛」「清水次郎長」「猿飛佐助」などのお話ももともとは講談が生みの親ですし、その他にも講談が元となった映画やTVもたくさんあるんですよ。古典ばかりでなく、最近の話題をモチーフにした新作もけっこうあります。例えば、私の大師匠にあたる田辺一鶴は1964年東京オリンピックの開会式の模様を講談で演じて大きな話題になりました。師匠の一邑はヤマハの創業者山葉寅楠や「フジヤマのトビウオ」と呼ばれた古橋廣之進など故郷浜松の偉人の講談を多く作っています。その他、企業の社長の一代記や、結婚式で新郎新婦のなれそめを講談にすることもあるんですよ。「落語&講談」「浪曲&講談」などの企画も多いので、コラボを楽しむのもおすすめです。
敷居が高いと思われている方も多いようですが、演芸場・寄席は普段着で来られる場所ですし、なにより料金が安い。企画によっては1時間半で3人の芸を見て1000円というものもあります。気軽に来ていただきたいですね。


ところで、9月1日(土)の関東誠鏡会総会で一席披露されるとのこと。その意気込みをお願いします。

総会のオープニングでやらせていただく予定です。総会の始まりにふさわしいわかりやすい題目を考えており、全く講談を知らない方に講談の良さが伝わるようなとっかかりになればいいなと思っております。皆様とお会いできるのを楽しみにしています。


素敵なお話を本当にありがとうございました。



【取材後記】

    • いちかさんはとてもチャーミング。まだ前座といいつつも特定のファンもいらっしゃるようで、お邪魔した講談での写真撮影後には次々と撮影を頼まれていました。
    • 取材時着用の着物は師匠から譲り受けたもの。着付けは大学時代に京都の飲食店で身につけたものだとか。
    • 時間によっては1000円で入場できる寄席も。ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょう。

 

掲載されたブログに関する皆様からのご意見・ご感想をお待ちしています。
こちらよりお寄せください。