Profile岩永正雄(いわながまさお)さん

1967年 八幡高校卒業(高19期)
株式会社 日本交通公社(現 株式会社JTB)入社
1999年 株式会社 JTBワールド九州 取締役経営管理部長に就任
2006年 株式会社 JTBワールドバケーションズ 執行役員に就任、東京へ異動となる
2014年 一般社団法人 防災教育推進協会 調査役に就任
2017年 一般社団法人 神奈川健康生きがいづくりアドバイザー協議会 理事に就任
一般社団法人 防災教育推進協会 理事に就任。現在に至る

八幡高校卒業後、交通公社(現JTB)に入社。2012年に(株)JTBワールドバケーションズを退職されるまで、45年の長きに亘って旅行業界に従事。2014年より防災教育推進協会に入り、主に子供たちや老人たちに防災をテーマとした講演活動などを行なっている。大蔵中学出身。


東北地方を中心に未曾有の被害を及ぼした東日本大震災。いわゆる3.11から早いもので7年の月日が経過しました。自治体や企業においては地震や津波などの自然災害に対しての備えが徹底されるようになった一方で、一般家庭においては災害に対する備えがまだまだ不十分で、むしろ防災意識も薄れてきているようにも思われます。
今回は、一般社団法人防災教育推進協会の理事として講演活動などにご活躍中の岩永さんとお会いして、家庭で取り組むべき防災についてお話を伺ってきました。


子供たちの真剣さに学んだ防災への意識

岩永さんが防災教育推進協会に入られた経緯について教えてください。

私は幼い頃に父親を亡くしたこともあり、高校を卒業してすぐに就職しました。旅に対する憧れが強かったので最初は国鉄(現JR)を志望していたのですが、当時の国鉄は労働争議も盛んで周囲から反対もされてしまい、紹介していただく方もいて交通公社(現JTB)に就職しました。そこで長い間、海外旅行を中心に取り扱う部門の責任者を務めてきましたが、勤務地としてほとんどの期間を九州で過ごしました。福岡誠鏡会の副会長も務めていたこともありますよ。ところが57歳でJTBワールドバケーションズの役員になったときに初めて東京に転勤となり、それからずっと関東に住んでいます。2012年にJTBグループを退職し、しばらく経ってから知り合いから「小学生、中学生向けにやっているジュニア防災検定試験の採点を手伝ってくれないか?」と言われて軽い気持ちで承諾したことが、この協会に入ったきっかけになります。


いわゆる専門的な知識を持って入られたわけではないんですね?

はい。それどころか試験の内容すら知らず、マークシートの回答に○×をつければいいんだろうというくらいの認識しかありませんでした。ところが試験は記述式で、回答文章をひとつひとつ読まなければなりません。更にはこの「筆記試験」に加えて「家族防災会議レポート」・・・子供たちが家族と防災について語り合った内容についてのレポートの提出、そして「防災自由研究」という防災についての作文やポスター、防災マップなどの作成と提出、この3種類で検定試験になっていることを後で知りました。採点官はこれら全てを読まなくてはなりません。これは安請け合いをしてしまったなぁ、面倒だなぁと本当に後悔しました(笑)。でも、とにかく約束した以上、一回はやってみようと子供たちの答案に向き合いました。

ところがそこで目にした答案用紙やレポートから子供たちの真剣さ、ひたむきさがひしひしと伝わってきたんです。読んでいる途中に涙が出てくるほどでした。ご自身が車椅子で生活していて万一災害が発生した際にどうやって自分の命を守るかを真剣に考えていたり、またご家族に障がいを持たれた方がいて、どうすれば家族を守る事ができるかを学ばれていたり・・・。長年企業に所属してそれなりに真面目に働いてきたつもりでしたが、心を揺さぶられるような思いというのを久しぶりに経験しました。同時に自分も生半可な気持ちで採点してはいけない、自分自身も防災について基礎から学ぼうと決意しました。
この子たちの役に立ちたいと、大げさかも知れませんがそれこそ寝食を忘れて勉強しましたよ。


すごくいいお話ですね。具体的にはどのようなことを学ばれたのでしょうか?

「防災士」そして「救急救命士」の資格を取りました。「防災士」は国の認定ではないのですが、各自治体が主体となっていますので、ここから学びました。「救急救命士」は消防署で講習を受けて取得しました。まずは子供たちの答案を採点するために必要な知識から身に着けていきましたが、最初は何もわかっていませんでしたね。自然災害についても、火山については、海外旅行の訪問先でたびたびハワイのキラウエアやイタリアのストロンボリなどに行っていたので最低限の知識はありましたが、集中豪雨や津波などについては全くわかっていませんでした。大変でしたがこれは勉強しなくてはならないと真剣でしたね。これも全てジュニア防災検定を通じて知った子供たちの情熱のおかげなんです。

ある程度知識が備わってくると、「防災寺子屋」という、さまざまな団体などに出張して防災についての講義を行なうことも始めました。これは単に知識だけでなく、話し方や伝え方も含めてまた一から勉強しました。そこではいろんな話をしますが、たとえば大正の関東大震災については東京が震源地と思っている方がほとんどです。実際には神奈川の相模湾が震源地で、建物の倒壊などの被害も神奈川が一番激しかったのですが、それを知っている方はあまりいません。東京はそのあとに発生した火事で大勢の方が亡くなられたわけです。こういう歴史についても語るようにしています。私以外にも数名講師がいて、さまざまなところで講演を行なっていますよ。『防災お姉さん』という係の女性もいて幼稚園で指導したりもしています。
各地で自治会、子供会、企業などで『防災寺子屋』のご要望があれば、時間の許す限りお伺いします。お気軽にご相談ください。



災害に備える意識と行動について

3.11以降、各自治体による防災条例が改められたりして、企業では災害に対する備えも整ってきているように思いますが、一般の家庭で考えておくべき防災について教えていただけますか?

まずは家族との日々のコミュニケーションが何より重要です。皆さんはご家族と災害発生の際に避難する場所を決めておられるでしょうか?まずはこういうことをきちんと家族で話し合っておくことが大事です。そのうえで、不幸にして災害が起こったら、まずはとにかく自分自身が助かることを考えて行動することです。被害の状況がわからないまま家族を捜したりすると却って危険です。事態が落ち着いて安全が確保された後にあらかじめて決めていた避難場所に行くようにしてください。また3.11のときには関東や東北で携帯電話が通じなかったという経験をした方が大勢いらっしゃると思います。ところが他の地方への連絡は比較的取りやすかったことも事実です。八高出身者の方は、北九州に親戚や友人がいらっしゃる方も多いですよね。そうした地方に情報のハブ(集約点)を持っておき、被災した方それぞれがそこに連絡することで安否を確認することも重要かと思います。


まずは命を守ることが第一ですよね。他にはどのようなことを考えておくべきでしょうか?

ご家族全員が防災に関する知識を幅広く持つことが非常に大切です。ところが残念ながら文部科学省の学校教育カリキュラムにおいて防災というものはありません。これはどこが予算を持つかという問題にも関わってきますので、一般的な避難訓練程度に留まっているようです。一方で特に関東では遠距離を通学している学生や生徒が非常に多く、学生や生徒が帰宅難民となってしまう危険性がとても高いのが実情です。私学においては積極的に取り組んでいるところもありますが、全体としてはまだまだ防災教育が不足しています。
勿論災害に遭わないことが一番望ましい事ではあります。でも地球環境の周期の問題で近い将来必ず大災害が起こるということを覚悟しておく必要があります。そのうえで正しい知識と備えをしておくことが大切なんです。知らないがゆえに助かる命を落としてしまうことだけは避けなければなりません。


これからの日本は特に高齢化社会に入るわけですが、防災の観点からも懸念されることも多いのではないでしょうか?

そうですね。ですから日頃から『受援力』を培う努力が非常に重要です。文字通り『支援を受ける力』という意味です。これは障がい者の施設の方から相談を受けたことがきっかけで、私自身、一年近くかけて勉強したのですが、『ここに障がいを持った方が住んでいる』とか『高齢者が一人で住んでいる』ことを日頃から周囲に知ってもらっていることが大切なんです。障がいのある方や高齢者はどうしても近隣との接点が少ないように思えますが、周囲が自分の存在を知ってくれている・・・これだけでも万一の際に助かる確率が高まります。


『受援力』という言葉は初めて聞きました。一方で災害が発生した際にはどのような備えがあると安心でしょうか?

災害に遭ってしまった場合は一定期間避難する必要があります。ところが避難所で過ごすことは精神的にも肉体的にも非常に消耗してしまう。可能な限り自宅で過ごすことを前提にした備えが必要と考えます。
具体的には一週間程度、自宅で避難できる備えがあると安心と言えるでしょう。そして『ローリングストック』という考え方・・・つまり消費しながら備蓄するということも重要です。たとえば非常食なども一定の期間で食べて、そして新しく補充をしていくんです。小学校に対しても数ヶ月に一度、給食において非常食を子供たちに食べさせることを提案しています。万一のときに期限切れになっているリスクを回避できますし、それ以上に避難生活において必要なものに普段から慣れておくことに意味があると思っています。トイレもそうです。学校ではまだ和式トイレがあるようですが、最近では洋式トイレしか使っていない人も増えています。災害の際には断水していることも想定されますので、場合によっては外で穴を掘って用を足せることも必要になってきます。携帯トイレなども単に準備しておくだけでなく、それを実際に使えるように訓練しておくことも大切なことだと思います。
また当然のことながら、避難している期間でも健康を維持していることが重要です。避難生活が長期に及ぶこともありますので、食糧、飲料水、防寒用具などの他、お肌や髪の毛、口腔を清潔に保つための準備もしておくことも必要です。女性にとって化粧や口紅などは気持ちを明るくする効果もあると言われていますので、見落としがちですが化粧品などを備蓄に加えておくこともお勧めします。
もうひとつ、備蓄するスペースの問題も考えておきたいですね。自宅に置ききれない場合は自家用車に保管することも検討してください。災害時にむやみに車を運転することは危険ですので避けなければなりませんが、車を備蓄庫として活用することも必要ではないでしょうか。


とても勉強になります。他に意識されていることはあるでしょうか?

はい。いつなんどき災害が発生するかわかりませんから、私自身も普段から最低限の備えは持ち歩いています。さきほどお話した携帯トイレや、ランタン(照明)、防寒用のアルミシートなど、非常食としての大豆やマーブルチョコレート・・・これはコーティングしてあるので夏でも溶けにくいですよ。



これは凄いですね・・・やはり知っておくべきこと、備えておくべきことが多いですね。

たしかにそうですが、なにより大切な備えは、冒頭申し上げたとおり日頃からの家族や周囲とのコミュニケーションだと思っています。自宅の周辺にどのような施設があるのか、どこへ行けば水や食糧が手に入るのか。こういった視点を持ってご家族と一緒に自宅周辺を歩いてみてください。またマンションの管理組合や町内会などに参加して、避難生活が必要となった場合にはペットをどうするのかなども決めておいてください。いざ災害が発生してから決めようとしてもさまざまな意見が出てきて決められないものです。もうひとつ大切なことは、大人が子供に万一のときの行動や考え方をしっかり教えたり、訓練してあげることです。いざというときに自分で判断して適切な行動ができるのは中学生以上だと思います。命に直接つながることですので肝に銘じておく必要があります。

最後に強くお伝えしたいのは、行政に頼らない意識です。いろんな方とお話をすると「行政が何とかしてくれるだろう」「助けてくれるだろう」と安易に考えている方がとても多いんです。災害の規模にも寄りますが、行政が機能しなくなる危険性は充分考えられますし、そもそも最優先で自分に援助が来るということを期待してはいけません。自分と家族の命を自分自身が守るという意識、これが大切です。

旅を続け、いつまでも健康で活き活きと。

ところで岩永さんは『神奈川健康生きがいづくりアドバイザー協議会』の理事も務められていますね。具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

自分自身は勿論ですが、多くの方がいつまでも健康で活き活きと生活していけるよう、シニア世代を啓蒙する活動をしています。実は数年前に頚動脈の手術を受けました。術後、医者からとにかく歩くように指導され、知り合いの薦めでノルディックウォーキングを始めてみました。するとその楽しさにすっかり魅せられてしまい、今ではインストラクターの資格も取得してその楽しさを伝える活動をしています。また、海外旅行も続けていますよ。なかでもイタリア、スペイン、スイスとハワイを中心に出かけていき、その楽しさを語る場をたくさん作っていきたいと考えています。『欧州旅行への誘い』というテーマで4月から4回に分けて講演も行ないます。旅の魅力、欧州の魅力を伝えることで、実際に旅を体験してもらえる人が増えると嬉しいですね。


本日は貴重なお話、ありがとうございました!



【取材後記】

    • 勉強することで防災の大切さを知り、「自分は黙っていてはいけないと思った」と言われる岩永さん。子供たちとのエピソードは特に情熱的に語っていただきました。今後、小中学生と一緒に学校周辺を歩いて防災マップを作りたいとのことでした。
    • これまで筆者も一般的な防災知識は持っていると自負していましたが、今回の取材を通じ、単なる知識以上に家族とのコミュニケーションが重要だという気づきを頂きました。

 

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