キリンビールマーケティング株式会社 栃木支社長
神元佳子さん(高38期)


Profile神元佳子(かみもとけいこ)さん

1986年八幡高校卒業(高38期)
1990年熊本大学文学部卒業
1990年キリンビール株式会社に入社 九州支社に配属
2006年広島支社 広島流通部長に就任
2008年キリンホールディングス(株)多様性推進室長
2014年キリンビールマーケティング(株)栃木支社長に就任

大学卒業後、キリンビール株式会社に入社。営業として社会人スタートを切る。2006年に女性初の営業部門長として広島支社流通部長に就任。2014年に栃木支社長に就任し、現在に至る。ご主人と二人暮らしだが、現在は宇都宮に単身赴任中。向洋中学出身。

今年の関東誠鏡会の総会・懇親会の当番期である高校38期の神元さんにお会いしてきました。彼女は現在、キリンビールマーケティング(株)の栃木支社長として活躍されています。入社当時はほとんどいなかったビール会社の女性営業としての苦労話と、自身の経験を得てつかんだ営業ノウハウや仕事についての考え方などをお聞きしました。この春に新社会人としてスタートを切られた同窓生の方にも是非読んでいただきたいです。もちろん、ビールについてのさまざまな知識についてもお聞きすることができました。

厳しい中、「川下り」という考えで臨んできたキャリア構築

考え方が古いのかも知れませんが、ビール会社の支社長さんが女性ということに驚きました。ビール業界を選んだきっかけをお聞かせください。

よく言われますよ(笑)。この仕事を選んだきっかけは大学時代のアルバイトです。当時、熊本に住んでいてステーキ屋さんでアルバイトをしていました。お客さんがおいしいものを食べて、飲んで・・・帰り際に笑顔で「おいしかったよ」って言って下さる。その時、おいしいものって人の心を豊かにするんだなぁと感じました。そしていざ就職を考えるときに自分は目に見えるもので人に貢献したいなと思ったんです。ということでメーカーを希望したのですが、お酒という商品は嬉しいとき、悲しいとき、楽しいとき・・・喜怒哀楽という人間の感情すべてに沿うことができるものだと思います。お客さまのさまざまな感情と共にいられるところに惹かれ、この業界を選ぼうと思いました。もちろん、自分がお酒が大好きだったことも大きな理由です(笑)。


なるほど。入社後は男性社会の中で苦労されてきたとお聞きしますが。

はい。入社して大きな異動を4度経験しましたが、その度に壁にあたり、悩んでもがいてきました。でも今、会社人生を振り返ってみると全てがよい経験だったと思います。
入社直後は九州支社で内勤職、その後営業の仕事に就きました。当時は女性を営業に出すのはどうかという意見も多かった時代です。実際に九州では女性として初めての営業でした。最初は本当にきつかったです。酒屋さんや飲食店を回りましたが、笑顔で話してくれる酒屋さんばかりではないし、他社の営業は全て男性だし、夜も営業での飲みに出ることもありましたが体力の問題もありそんなに遅くまでは行けませんし、営業に出て最初の1年間はどうなるんだろう、辞めようかなと思っていましたね。
ところが自分の後輩にどんどん女性が入ってくるようになり、いつの間にか所属していた営業部門18人中8人が女性となりました。その時の上司がとても前向きな方で、せっかくだから女性の強みを活かした営業をやってみようと言ってくれ、売り場提案や店舗レイアウトの仕事などに取り組ませて頂きました。そこでだんだんと自分の強みもできてきて、仕事に自信がついてきました。



<1993年の社内報・・・入社4年目の神元さん>

その後、異動で広島に移りましたが、ここでも最初は苦労しました。担当していた流通小売業のバイヤーさんはスキルや経験のない私にはなかなか心を開いてくれません。お得意先もライバルもみんな男性ばかりです。しかもほとんどが喫煙者で・・・(笑)。喫煙コーナーが本音情報の交換場になっていました。私は吸わないのですが、缶コーヒー持って喫煙コーナーに入って商談や情報交換をするしかないなと。とにかく自分が相手を好きになろうと考えて、「この人は何に困っているんだろうか」とか 「どうして欲しいのか?」などできるだけ先回りして行動することを心掛けてきました。最初はなかなか心を開いてくれなかったお客様が最後は「神元さんは自分にとって仕事上の奥さんだ」って言ってくれたときはとっても嬉しかったですね。

そして2006年に営業部長に昇格しました。この時も悩みに悩みました。覚悟も準備も全くないままに部門長になってしまい、それまでの先輩や同僚が自分の部下になってしまったので、いったいどのようにふるまえばいいのかを半年くらい悩んでました。いろんな研修にも出向いて他の女性リーダー職の方とも話をしたりするうちに、「自分が引っ張っていく」のではなく、「寄り添って背中を押してあげる」リーダーシップのカタチでよいのかな?と感じるようになって少し肩の力が抜けたように思います。
その後、東京に転勤して多様性推進室長として新しい仕事を経験させて頂きました。そして2014年からは栃木支社長として頑張っています。


寄り添って背中を押すリーダー、いいですね!現在の役職、「支社長」の具体的な仕事を教えてください。

一言でいうなら「キリンビールの栃木県の顔」です。キリン一番搾りなどを飲んで頂いて、栃木のお客様のうれしい、おいしいに貢献することが第一の仕事です。お酒屋さんや量販店はじめ民間企業のお客様は勿論ですが、県知事さんや市長さんにもお会いしたりしてキリンのファンを増やしていくよう努めています。

そしてもうひとつ、約50名いる栃木支社の社員たちに心からキリンっていい会社だなと思って貰える、公私ともにいい人生を送って貰えるように社員を支援をしていくことも支社長としての大切な仕事だと思っています。みんなと協力し合って目標達成したときなどは、最高の喜びを感じます。
少し宣伝になってしまいますが、47都道府県それぞれの県限定の一番搾りを発売する予定です。栃木では2016年10月12日に「栃木づくり」を発売します。日光東照宮のような華やかな香りと黄金色のビールになる予定です。缶の裏には私のサインが印刷されていますので是非栃木県にお越し頂きお求めください(笑)。


本当にいろんな経験をされているんですね。こうした経験を通じて得た神元さんの企業人としてのキャリアについての考え方をお聞かせ下さいますか?

わたしは「川下りのキャリア」と呼んでいます。こうなくてはならない、と決めつけずに、おかれた現状の中で柔軟にキャリアを考えること。そして目の前の激流を一生懸命に漕いでいればいつしか自分が辿り着くべきところに着いている・・・計画された偶発性という考え方です。

変化していく嗜好への対応を続けていく

話は変わりますが、最近はいわゆるビール離れが進んでいると言われますよね。会社としてはどのような対策を考えられているのでしょうか?

今、飲みに行って2杯目に生ビールを頼む人は5割を切っています。ですから、2杯目以降、ビール以外のお酒もおいしく楽しく飲んで頂けるような商品提案をしています。シニアの方々も若い人たちも多様なお酒を楽しみたい、こうした課題を解決できるように会社として取り組んでいます。私は最初から最後までずっとビールでも平気なんですが(笑)。

また、いわゆる「女子会」などの言葉が生まれたように、女性視点での開発の重要度が増してきています。最近人気が出ているソフトクリームのような泡の生ビール「一番搾りフローズン生」。若い女の子が「生!」って言ってもかっこいい生ビールをという試みで生まれました。

それに「氷結」がそうですね。氷結が出るまで缶チューハイというとおじさんの飲み物というイメージが強かったのですが、女性が出張帰りの新幹線で飲むことができる、おしゃれな缶チューハイを作ろうということで開発しました。


他にもどのような市場の変化があるのでしょうか?

ビール離れの一方、クラフトビールのように作り手の顔が見えて少量生産でこだわったビールは好きという方が増えています。キリンでもスプリングバレーブルワリーというブランドで横浜工場と代官山のブルワリーレストランで作っています。山椒や白ワインの香りのするビールなど、この2か所だけでしか飲めないビールを出しています。これまで日本のビール市場はピルスナービールという、すっきりした味わいのものを中心に形成されてきました。でも最近は黒とかエールビールなど、どっしりとした味わいのもの、香りのよいものなども知られるようになり、ファンが増えています。また、キリンでは昭和のレシピにこだわったビール、キリンクラシックラガーを製造していますが、若い人の人気が高まっていると聞いています。


こだわりのビールといえば、1986年に出したハートランドという緑のボトルのビールは、一切コマーシャルしていないのにいまだに売り上げが伸び続けています。当時、今の六本木ヒルズのあたりに外壁に蔦の絡まっている洋館がありました。そこで期間限定でハートランドというビアホールを営業したのですが、もともとはその店のためだけに作ったビールでした。

ですからイメージに合わせてこのビールだけは緑色の瓶を採用しています。爽やかな香りがして、軽やかなホップを使っているので、麦芽100%なんですが決して重くありません。よく洒落た飲食店やバー、レストランなどで採用されていますし、一部は店頭にも置いてあります。でもリターナブル瓶ですのでお買い求めの際はお酒屋さんに戻してもらうようお願いしますね。


興味深い業界のお話

ところでおいしいお店の見分け方などありますか?

こればっかりはわかりません(笑)。でも同じ生ビールでも抽出機械の手入れやグラスの洗浄をしっかり行っているお店では、飲んだ後のグラスを見るとよくわかります。エンジェルリングと呼ばれている泡の輪がグラスに残っているお店はメンテナンスをきちんとなさっていて、実際にビールの味もおいしいですよ(グラスの形状や注ぎ方などによってはエンジェルリングが残らないものもあります)。

他に業界特有のお話などをお聞かせ願えますか?

そうですね。お酒の会社ですからお酒を飲んでのトラブルにはとても厳しいです。飲酒運転などは言語道断ですが、たとえば酔ってお店や他のお客様にご迷惑をおかけしてしまったということがあれば厳しく処分されます。昔はお酒が入っていたから仕方ないね、とお酒のトラブルには多少寛容になる会社が多かったでしょうが、たとえそれほど飲んでいなくても、お酒の席のトラブルには我が社では言い訳はききません。

他には・・・あ、そうそう、お酒が飲めないと入社できないでしょうか?とよく聞かれます。答は勿論大丈夫です(笑)。実際に飲めない社員もいますよ。でもお酒を飲む場やみんなでわいわいやる雰囲気はみんな大好きですね。

今年の総会は笑顔で!

今年は関東誠鏡会総会・懇親会の当番期で副実行委員長を務められるそうですね?

はい。今年は8月27日(土)にロイヤルバークホテルで行います。楽しみにしていてください!今年の当番期は例年に比べ人数が少ないですし、私を含め関東といっても東京以外に住んでいる者も多いのでいろいろ大変です。私も副実行委員長兼来賓担当兼企画兼・・・ということになっています(笑)。でも少ない人数だからこそお互いに情報を共有し、主体的に補い合って進めています。
私たちは「今年の総会は凄かったね」よりも、「来て楽しかったね」を目指しています。毎年お越しになっている方も、初めてお一人で来られた方でも、皆さんに笑顔になって頂けるように一所懸命取り組んでいます。
懇親会ではキリンビールは勿論ですが、ワインや北九州の地酒も取り揃えてお待ちしています!


本日は大変お忙しい中、本当にありがとうございました!




【編集後記】

  • 現在は栃木に単身赴任中の神元さん。会社から徒歩15分くらいのところに住んでいるのだそうです。やはりその土地に住んでいるからこそ気づくことやわかることも多いとのこと。
  • ご主人とは広島勤務時代に職場で知り合ったとのこと。他の社員にばれないようにお付き合いして、どちらかが転勤になったら結婚しようと思ってたら異動になるまで6年もかかってしまい、その頃には職場の仲間や同業他社の営業マンにも感づかれていたようです(笑)。
  • 神元さんはインタビューの後、月島にて今年の関東誠鏡会総会・懇親会の実行委員会に出席。高校38期のメンバー全員で熱く議論を行ない、会議のあとはみんなで月島名物のもんじゃ焼きへ。もちろん同期全員が最初から最後まで一番搾りの生を飲んでいました。
  • 会計を済ませて外へ出るとき、お店のご主人にお礼を言いながら丁寧にお話をされている姿は、キリンの支社長さんに戻られていました。
  • お会いする前はいわゆる男勝りな方では?というイメージを持ってインタビューに臨みましたが、お話を聞くうちに神元さんのとても穏やかで、人にも仕事にもきめ細やかに心配りしているところが伝わってきました。「引っ張っていく」のではなく「寄り添って背中を押してあげる」リーダーシップという意味もよく理解できました。




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