住んでいるから知っている、ホントにいい場所、いいお店。
かつての稲毛は、東京湾に面した美しい海岸を持つ海辺の保養地として知られていました。明治から昭和初期にかけて、文人や著名人が別荘を構え、海水浴や潮干狩りを楽しむ人々でにぎわっていました。現在は埋め立てによって海岸線は遠くなりましたが、「稲毛海浜公園」や「いなげの浜」などが整備され、当時の面影を残しています。公園からは東京湾越しに夕日や富士山を望むことができ、今も多くの人々の憩いの場となっています。



【案内人】高36期 塚原克孝さん

稲毛に本社のある会社に就職したことが、稲毛に住むきっかけになりました。その頃に結婚し家族ができたことですっかり稲毛に落ち着くことになりました。それから転職し、今は会社を離れ絵画教室をやっていますが、稲毛に住み続けています。整備された新しい町並みや施設の中に古い文化が散りばめられ、居心地の良い落ち着きを感じます。かつて港や海水浴場として栄えていた面影が、故郷の若松と重なるところがあるせいかもしれません。

おすすめ:その1
ラストエンペラーの弟、その静謐な生活跡「愛新覚羅溥傑ゆかりの家」

明治時代中期に千葉県初の海水浴場が開かれて以降、東京から鉄道での利便性もあって、「稲毛」には保養地として多くの別荘が建てられました。この家もその一つで、清朝最後の皇帝・愛新覚羅薄儀の実弟・薄傑(ふけつ)が、妻・浩(ひろ)と新婚生活を送った場所として知られています。木造平屋造りの家は清朝皇帝の弟が住んだ邸宅としてはやや慎ましいのかもしれませんが、格天井、精巧な欄間の彫刻、ガラス戸の結霜ガラス、洋風の照明など・・・と洒落たデザインがあちこちに散りばめられ、やはり満州国の皇弟・溥傑と天皇家の血筋につながる嵯峨家の浩に相応しい格式の高さが感じられる邸宅でした。満洲国崩壊の後激動の人生を歩んだ溥傑が、晩年の1990年(平成2年)に来日しこの旧居を訪れ、この家での生活は幸せだった・・・と詠んだ詩も展示されています。
高台にあるこの邸宅からふと南西の空を眺めたとき、きっと昔は目の前に海岸線が広がり夕日が沈む絶景が見られたんだろうなぁ、と当時に思いを馳せることができました。

おすすめ:その2
葡萄を探せ!!大正時代のモダン建築が美しい「神谷傳兵衛別荘」

「日本のワイン王」の異名を持つ神谷伝兵衛は、「デンキブラン」で有名な浅草の「神谷バー」のオーナーとして、また茨城県牛久のワイン醸造場「シャトーカミヤ」の創始者として知られる明治の実業家です。神谷伝兵衛の別荘として1918年(大正7年)建てられたこの建物は、1階はアールヌーボー調のモダンな洋館、2階は本格的な書院造。玄関ホールに入ると、1階から2階へとゆっくりつながる階段が美しい曲線を描いて優雅な空気感を作り出しています。ホールに飾られたのシャンデリアの付け根部には葡萄のレリーフが施されていたり、2階の床の間の床柱は葡萄の古木が使われていたり、傳兵衛の葡萄への思いがここからも伝わってきます。ほかにも、別荘の中には「葡萄」を感じさせるモチーフがたくさん隠されています。お越しの際は、どこかに潜んでいる「葡萄」を探してみてくださいね♪♪


そんな中、芸大出身の塚原さんの目の付けどころにはさすが!!格子窓に嵌められたガラスです。それは波打っていたり、小さな気泡が入っていたり、張り合わせた跡があったりと、2つとして同じ形のガラスがないのです。大正時代、ガラスはまだまだ高価なもので財力のある家でないと購入することができませんでした。当時は、『手吹円筒法』と呼ばれるガラスの製造方法が主流で、1枚1枚が手作りがゆえの不規則な歪みがあるのだそうです。ガラス越しに見る庭は、ゆらりと歪んでとても味わい深く、またレトロな雰囲気があり、やさしい気持ちにさせてくれます。


おすすめ:その3
パリッと香ばしい石窯焼きパン【Le・Matin (ル・マタン)】

お店の前に立つとパッっと目を引く大きな石窯。炉のまわりを耐火レンガで囲んだスペインから直輸入の石窯だそうです。耐火レンガの中で発生する遠赤外線でしっかり焼かれたパンは、中心まで熱が入りしっとりした香ばしいパンになります。その石窯で焼かれた「ル・マタン」の看板商品はなんといっても「超ロングウインナー」。思わず叫んでしまう「なげぇーーーーー!!!」。フランスパン生地の中に、特製の粗挽きウインナーと粒マスタードの相性が最高です。



塚原さんは「超ロングウインナー」をお持ち帰り。取材班は「モンブランパイシュー」と 「キャラメルナッツタルト」を選んでサービスのコーヒーと共に午後のひとときをテラス席でまったりと過ごしました。「モンブランパイシュー」は、薄めのシュー生地でサックサク食感、少しふんわりしたクリームは栗の風味豊かで渋皮栗の味わいが広がります。「キャラメルナッツタルト」はカシュ―ナッツ、アーモンド、ピスタチオなど数種類のナッツがふんだんにシットリとしたタルト生地にキャラメルに絡まって最高の贅沢感が味わえます♪♪


おすすめ:その4
波打ち際に鎮座していた美しい古社「稲毛浅間神社」

東京湾の向こうの富士山を望むことができたことから、西暦808年、平城天皇の時代に富士山本宮浅間大社(静岡県富士宮市)の御分霊を祀ったのが稲毛浅間神社の始まりと伝えられています。境内に入り鳥居をくぐって振り返ると、なんと、今入ってきた鳥居の向こうに14号線を挟んで小さな鳥居が!!稲毛海岸が埋め立てられる前は、海の中にこの鳥居があったそうで、浅間神社のすぐ前は潮の香りが漂う海岸線であったことがわかります。御祭神は木花咲耶姫命(このはなのさくやひめのみこと)、瓊瓊杵命(ににぎのみこと)と猿田彦命(さるたひこのみこと)が祀られており、古事記の世界を思い起こさせます。塚原家の初詣はここ浅間神社とのことですが、三が日は激混みなので元旦を避けてお参りしているそうです。普段はひっそりとしており、四季折々の風景を楽しむことができます。春の桜、夏の緑、秋の紅葉、冬の静けさと、いろいろな季節で異なる表情を見せる境内を散策してみませんか。


おすすめ:その5
老舗なのに新商品開発に熱心なお茶屋さん「稲毛園」~おみやげにどうぞ

昭和10年開業、稲毛に根付いて80年の老舗のお茶屋さん「稲毛園」。お店に入ると笑顔がとても素敵な3代目店主の海宝さんがお出迎えしたくれました。海宝さんはユニークなアイデアで次々と新しい商品を開発し、これまでも多くのメディアにも取り上げられてきました。 一歩お店に入ったとたんそのアイデア商品がパっと目に入ってきます!? お茶と深層海洋水で煮込んだ「あさりの佃煮」。宇治抹茶の生地に千葉市産落花生を加えた「抹茶ビスコッティ」 。そして、ある自家焙煎珈琲店と共同開発した新商品「電氣ブランケーキ」。電気の気の字が「氣」!!エネルギーを感じますね~~ もちろん老舗のお茶屋さんなのでお茶へのこだわりは半端ない。静岡の本山、掛川、榛原、藤枝や京都の宇治など数種類の葉を厳選して、季節(気候)に合わせて繊細なブレンドをしているそうです。お店ではさっそく「昔ほうじ茶」を試飲させていただきました。稲毛園オリジナルの商品でとてもまろやかな味です。 オンラインショップもあるので是非お取り寄せしてみてください。


お土産に「あさりときゃらぶきの佃煮」、お茶は「浅間の杜」を選びました。もちろん、「電氣ブランケーキ」は外せません!静岡牧之原の銘茶と宇治茶をブレンドした「浅間の杜」をぬるめの温度で淹れ、「電氣ブランケーキ」といっしょにいただきました。フワっと良い香りがたちこめる甘めのお茶と生姜のスパイス漬けがピリッと効いたケーキのハーモニーが最高です!