八高の大先輩にお話を伺うと、大蔵校舎世代の諸先輩からこぞって出てくる話題に「雪中行軍」があります。清田校舎世代の筆者は『おまえ、雪中行軍知らんとか~?』と・・・

かつて八高では、冬に雪が降ると授業は中止、全校あげての「雪中行軍」が行われていたそうです。目的地は「河内貯水池」。当時の大蔵校舎は大蔵川(板櫃川の上流)沿いにあり、雪の積もる雪道を全校生徒が川を遡って河内まで行軍。まさに八甲田?雪降りしきる中の雪中行軍では帰路につく頃には靴や靴下は水浸しに、また雪玉を投げあってビショビショになっても誰も文句を言わず、そんな一日の苦行を皆で楽しんで、授業が無い一日を過ごしたそうです。

また、新入学の男子生徒の最初のイベントは河内までのマラソン大会です。7キロの往復をこなしていたそうです。今回の”知っとぉ”は、そんな八高とも由縁が深い「河内貯水池」を特集します。


八幡製鐵所に工業用水を供給する、東洋一のダム


製鉄所では大量の水を必要としていましたので八幡のあちこちには貯水池があります。河内貯水池は、八幡製鐵所の第三次拡張工事での水源地拡張対策の一環として1919年(大正8年)に竣工。8年の歳月をかけて、延べ90万人を動員して1927年(昭和2年)に完成した重力式コンクリートダムです。戦前の貯水池ダムとしては最も高く、貯水量700万トンは当時東洋一だったそうです。工事の総指揮者は、水戸の武家のご出身で官営八幡製鉄所修築科長、土木技師の沼田尚徳さん。当時最新の土木技術をふんだんに用い、独自の設計で土木構造物としての新しい挑戦を行いました。


官営八幡製鉄所修築科長、沼田尚徳さん


独特の英知を凝らした堰堤はヨーロッパの古城をイメージ


当時コンクリートは高価な為、粗石を混ぜて使用し、銅板を内部に入れた伸縮継手で亀裂を防止した設計。また、将来市民の憩いの場所とするため、橋や取水塔、管理事務所に至るまで欧米風の洒落たデザインを凝らしたものでした。産業遺構としての世界遺産の評価の引き金になったものとして、土木学会選奨の土木遺産に認定されています。


日本に現存するレンティキュラートラス橋は、この橋だけ



当時の写真:土木図書館/戦前土木絵葉書データベースより


以前土木100選でもご紹介をしました、南河内橋(通称めがね橋)は、その構造が珍しい鉄橋です。日本の土木遺産として価値のあるものだそうです。1926年(大正15年)に竣工、1927年(昭和2年)に完成。レンズ形に鋼材を組み合わせた橋長132.97m、径間66m、幅員4.1mのレンティキュラートラス橋(レンズトラス橋)1920年ごろに英国、ドイツ、米国を中心に普及した鉄橋の技術だそうですが、日本で建造されたのは群馬県の前橋、桐生、そして、この南河内橋の3橋のみで、現存するのはこの橋だけの価値あるもので、平成18年12月19日に国の重要文化財(建造物)に指定されました。
八幡製鉄所のSマークが施され、自動車と馬車が一台ずつ走れるように考慮し、合理的で明快な部材構成で橋梁技術史上高い価値なのだそうです。現在は歩道橋として使われていますが、塗り替え工事のため令和5年3月(予定)までは通行禁止です。



沼田さんの哲学 遠想「土木は悠久の記念碑」


河内貯水池の堰堤を見下ろす小高い場所に石積の管理事務所が建っています。ヨーロッパの古城をイメージしたという、その出入口に沼田尚徳さんの「遠想」の言葉が刻まれた掲額が残されています。「土木は悠久の記念碑」というヨーロッパの土木哲学を具現化した、沼田光徳さんの英知と情熱を注いだ大事業。日本の未来を想い、作られた河内貯水池、八高生にとっては思い出の地。百年経って、製鉄所もなくなり、遊園地の後はショッピングモールになりました。製鉄に必要だった大量の用水は必要なくなりましたが、市民の憩いの場であり文化遺産として価値あるものになりました。今日でもその水は脈々と続いています。


古民家カフェ&春は桜と「河内藤園」へ​


現在の河内といえば「藤」ですね。河内貯水池近くの河内藤園は、1977年に開設された個人の藤園です。アメリカCNNが「日本で最も美しい場所31選」の1つとして取り上げて有名になりました。樋口正男氏が「自分の生きた証を残したい」という幼少期からの夢を実現するべく、家族とともに所有していた土地に藤の木を多く植えて開設。22種類約100万本の藤が植えられています。海外メディアで話題になったことをきっかけに、近年では国内外から訪れる観光客は非常に多いです。
河内藤園は、開園時期が春先と紅葉の季節のみに限られています。入園は事前購入制なのでお確かめください。

また、貯水池近くの旧河内民芸村の敷地におしゃれな古民家カフェもオープンしています。
ゆったりとしたひと時を過ごすのはいかがでしょうか? 温暖化であまり雪は積もらなくなりましたが、帰省の際には、「雪中行軍」の河内貯水池へ足を運んで、思い出探しはいかがですか?


andy_coffee_stand
北九州市八幡東区河内3丁目4-16




【参考情報:URL】

・近代土木遺産「河内貯水池」
 https://www.jsce.or.jp/branch/seibu/05_heritage/kawati.html

・河内藤園
 https://kawachi-fujien.com/

・andy_coffee_stand
 https://www.instagram.com/andy_coffee_stand/




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