東急建設(株) 技術研究所 メカトログループ リーダー 
柳原好孝さん(高34期)


Profile柳原好孝(やなぎはらよしたか)さん

1982年八幡高校卒業(高34期)
1988年熊本大学工学部卒業
(オーケストラ活動に学生生活の全てをささげたため卒業が延びる)
1988年東急建設(株)入社
土木技術部技術開発課に配属
1992年同 技術研究所に異動
2003年日本ロボット学会 理事就任
2007年日本機械学会に参加
2016年日本機械学会
ロボティクス・メカトロニクス部門 部門長就任

※メカトロニクス(メカトロ)とは、機械装置(メカニズム)と電子工学(エレクトロニクス)を融合させた和製英語。実際は機械工学、電気工学、電子工学、情報工学の知識・技術を融合させて生まれる工学技術を指すことが多い。代表的な技術としてはロボット、ハードディスク、CDプレーヤー、自動改札機、ATMなどがあるが、カメラや自動車などの機械産業でもメカトロニクス化がすすんでいる。

八幡高校卒業後、熊本大学工学部にて生産機械を学ぶ。専攻は切削加工。大学卒業後、東急建設(株)に入社。土木機械の自動化に関する開発に携わった後、1992年に技術研究所に異動。以来、建設ロボットの研究開発に関わる。2001年より日本ロボット学会、2007年より日本機械学会に参加。2016年日本機械学会同ロボティクス・メカトロニクス部門長に就任。高校時代は吹奏楽部に所属。現在は奥様と3人のお嬢さんとの5人暮らし。水巻南中学出身。


2016年11月某日、神奈川県相模原市の東急建設技術研修所にて、メカトロ部門で開発リーダーを務める柳原さんに、ロボットの魅力、ロボットの現状と未来の展望についてお話を伺いました。

柳原さんとロボットの関わりについて

そもそもなぜ、ロボットに関わるお仕事に就かれたのですか?

大学の専攻は切削加工で、研究室の仲間は自動車メーカーなどに就職していましたが、私は「企業の歯車のひとつになるより、常に新しいことに挑戦できる仕事がしたい」と思っていました。そんな時、仲のよかった就職担当の先生から「お前にぴったりの会社見つけたぞ」と紹介され、有無を言えぬ状況で(笑)、東急建設に決めました。
入社して4年ほど土木機械の自動化の開発に携わった後、技術研究所に異動し、建設ロボットの研究開発に関わるようになりました。正直、最初は私自身、こんなにロボットに”ハマる”とは思っていませんでしたが。

その”ハマった”要因は何でしょうか?

まずは、当時の上司のロボットへの思い入れに共感したことでしょうか。特に誰も手がけていない領域には自然に興味が湧きました。「新しいことに挑戦したい」という学生時代からの希望にも合致していましたし。技術研究所での成果を学会で発表する動きを経て、2004年に産学官連携のHRP(ヒューマノイドロボットプロジェクト)に参加してから、大学の先生や研究機関とのおつきあいが深まることで、どんどん視野も拡がりますます面白くなっていきました。

とはいえ、研究開発には苦労がつきものだと思うのですが・・・

そうですね。実は意外かもしれませんが、ロボットは1つの動作に対してプログラムは1つなんです。例えば、「座る」動作と、そこから「立ち上がる」動作のプログラムは別で、座らせることに成功してから立たせるまでに1年かかった例もあるほど。ロボットの研究をしていると、人間という生き物がいかに優秀かに気づかされます。「カップ焼きそばを作る」という簡単なことでも「フタをはがす」「具を乗せる」「お湯を注ぐ」「お湯を捨てて3分待つ」というタスクがあり、実はロボットで成功した例はないんです。
「鉄腕アトム」や「ドラえもん」の誕生から約半世紀を経ても、彼らのようなロボットは現れていません。その点からも、ロボット開発の難しさがおわかりいただけるのではないでしょうか。それだけに、課題を1つクリアすると喜びも大きいのですが。

東日本大震災を境に一変したロボット開発

最近のロボット事情について教えてください

少し前までは、「ヒューマノイド型ロボット」をはじめとした、どちらかと言えば「新しさ」「独創性」「楽しさ」を軸にした研究開発がメインでした。ところが、東日本大震災を境に状況は一変します。現在、ロボットに求められるのは「実用性」。効率性や安全性、そして「何の役に立つのか」という点が重視されるようになりました。
インターネットによって自動認識、自動制御、遠隔操作などを行う「IoT」の発展も大きな流れですね。例えば、最近話題の「Pepper(感情認識パーソナルロボット)」の知能部分も本体外部にあって、インターネットで繋がっているんです。ロボット本体の小型化も進んでいくと思われます。
さらに欧米や中国などのロボットの研究開発への取組みが活発化する中、政府は「ロボット革命」を掲げ、経済再生の柱のひとつとしました。ロボット技術開発はますます加速しそうです。

※IoTとはInternet of Thingsの略。従来、インターネットは主にパソコンやサーバー、プリンタ等のIT関連機器が接続されていましたが、IoTはそれ以外の様々な”モノ(家電、カメラ、自動車等々)”を接続することを意味します。例えば、家電や色々なセンサー、クルマなども繋がります。

では実用性とは、例えばどんなものでしょうか

今、期待が集まっている分野は「介護」「製造」「建設」「農業」「災害救助」「点検」の6分野です。
もっとも現実味のある分野としては「介護」でしょうか。介護ロボットにはさまざまな意見がありますが、介護の内容によっては人にやってもらうことを恥ずかしいと感じる方や、指示を出すのが苦手という方も少なくありませんし、介護職の方の負担を減らすと言う意味でもロボットへの期待は高いですね。
「製造」「建設」「農業」などの分野では、より繊細な作業が求められるようになってきました。例えば、製造の場合は、配線などの細かい作業、農業の場合はトマトやイチゴといった柔らかい農作物の収穫などが望まれています。
そして、「災害救助」「点検」で求められるのは人が入れない危険な地域で人間に代わっての作業です。「災害救助」で求められるのは、救助そのものの他にセンサによる「発見」もあります。「点検」では福島の原子力発電所内、老朽化したトンネルの安全点検もあります。笹子トンネルの落下事故以降、トンネル内のメンテナンスは急務になりましたが、実は点検・修繕には熟練の技が必要。人を育成する時間も予算もない中ではロボットへの期待が高まっています。

東急建設が取組む5つの技術
「わける」「まもる」「はかる」「はこぶ」「いどむ」

その中での東急建設はどんな取組みをしていますか?

現在私たちが取組んでいるのは「廃棄物を『わける』」「構造物を『まもる』」「工事を『はかる』」「重たいものを『はこぶ』」「最先端に『いどむ』」の5つの技術です。

まず、「廃棄物を『わける』」技術ですが、建物解体時に発生する廃棄物の種類の特定と選別を行います。環境を守りつつ、安全化とリサイクル率の向上させることができます。


廃棄物選別ロボットでは、人手では難しかった精度の高い選別作業を休まずに行えます。


双腕マニピュレータは2本の異なるアームでコンクリートの破砕と引きはがしを同時に作業します。


次に「構造物を『まもる』」技術は、交通インフラや公共建築物の維持管理です。例えば、コンクリートを破壊せず内部調査を行うロボット、足場を設置せず外壁を調査するロボットがあります。前述のトンネルの点検・診断ロボットもこれにあたります。
「工事を『はかる』」技術は3次元設計データや情報通信技術を使い、巨大な構造物を「素早く、無駄なく、安全に」建設するための計測技術です。距離や高さなどの測量だけでなく、騒音や振動、放射線量等を測るロボットもあります。
「重たいものを『はこぶ』」技術は、限られた空間で重量物を迅速に運ぶ技術です。無足場化も可能で、工期短縮と安全向上を図ります。
最後は「最先端に『いどむ』」技術です。これまでになかった新たな事業領域に挑戦。人の代わりにフォークリフトを運転するロボットや、月面の砂を用いて月面基地を構築するロボットなどを開発しています。

車輌代行運転ロボットはヒューマノイドロボットを遠隔操作し、フォークリフトなどの運転をさせ、雨天時でも屋外作業を可能にしました。


建設用ロボットの進化も著しいんですね。課題などはありますか?

建設業労働者の慢性的な人手不足に加え、急速な高齢化があります。また、製造業などに比べ機械化・自動化が遅いなど問題があり、ロボット化に対する期待は非常に大きいんです。一方で、進化には多くの課題もあります。建築物は仕様がさまざまで規格化が難しく、さらに過酷な環境に耐えうる耐久性も必要です。そしてミリ単位の精度も求められるため、コストダウンが難しいなど、まだまだ発展途上の段階にあります。
今後は、ロボット産業全体のいいところを上手に取り入れながら、進化のスピードは少しずつ速くなっていくはずです。

ロボットのこれからについて

今後、ロボットはどうなっていくのでしょうか

私たちの気づかないところにもロボットはどんどん入っていくと思います。例えばAI(人工知能)も広い意味ではロボットの範疇なので、Pepperのようにコミュニケーションができるロボットも増えていくでしょう。介護ロボットに代表される、人の支援をするアシストロボットの進化にも注目です。
また、人の目が届かないところに見える目(検査など)、届かないところでの作業(ドローン活用)、ロボット手術(皆がドクターXになれる技術)、さらには宇宙や深海での活用への期待も高まっています。
ロボットの可能性は無限大。何よりもみなさんの生活に直接関わる技術ですから、もっと興味を持っていただきたいですね。ニュースも「それは何の役に立つの?」「誰にメリットがあるの?」と言った視点で見ると、面白いと思いますよ。


貴重なお話ありがとうございました。



【編集後記】

  • 柳原さんの頭の中はアイデアの宝庫。毎日寝る前に「こんなことできないかなあ」と考えるのが楽しみだそう。自分のアイデアをニュースで発見すると悔しいので、ヒヤヒヤしながら新聞を開くそうです。
  • 私生活でも柳原さんはクリエーター魂を発揮。関東総会の当番期では七条電停を本物そっくりに再現し、参加者に多くの感動を与えました。
  • 柳原さんの趣味はマラソン、楽器演奏。パートはホルンで今でも母校熊本大学の「熊大フィルOB会」で演奏しているそうです。
  • 取材場所となった東急建設技術研究所。電話をして予約すれば誰でも見学が可能で、京王橋本線橋本駅より送迎バスが出ています。




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