『田舎暮らしの本』(宝島社)が全国47都道府県243市区町村を対象に行った「50歳から住みたい地方ランキング」の調査で北九州市が1位になった。医療や介護、「生涯活躍のまち」への取り組み、移住支援などが評価されたらしい。
 このニュースを知った時、地元の親の介護や自分のUターンが脳裏に浮かんだ人もいるはず。ただ、首都圏に北九州の情報があまり伝わってこないせいか、今ひとつピンとこないのは私だけではないだろう。せっかくの恵まれているであろう制度も知らないまま、「北九州市が1位?すごいね」で終わりそう。
 そこで、北九州市にご協力いただいて、電話インタビューで「北九州市が行っているシニアサポート」について具体的に教えていただいた。すると、予想を上回る充実した取り組みの数々で、少し記事が長くなってしまったが、役立つ情報が含まれていると思うのでぜひ最後までご一読を。

医療は全国トップクラス、他自治体にはない「生涯活躍」支援、全国初の 『シニア・ハローワーク』。北九州市は確かにすごいかも。

【お答えいただいた方】
北九州市
企画調整局 地方創生推進室
定住・移住促進担当 小田聡 係長

まずは、今回のランキング1位、おめでとうございます!反響はいかがでしたか?

ありがとうございます。思っていた以上の反響がありました。たとえば、田舎暮らしの本を見た週刊誌の『女性自身』から取材依頼が入りました。最初は「北九州が本当に住みやすい街なんですか?」と半信半疑のようでしたが、取材の結果、「北九州市が生活天国No.1」というタイトルの記事が掲載されました。

NHKからも「最近、北九州市が注目されてますね」と取材依頼がありました。「シニアだけでなく子育て環境も充実しているんですよ」とデータを示しながら説明させていただいたところ、全国放送のニュース(『ニュース シブ5時』)で「北九州市は全国の大都市の中で最も子育てがしやすい街」として紹介されました。



NHK『ニュース シブ5時』取材風景


そして、市民の皆さんも「ごく当たり前と思っていたけど、いい生活環境だったんだね」と認識してくださるようになったり、市としても改めて「この生活のしやすさの魅力もしっかり発信していこう」となりました。


「シニアにも優しい、子育てもしやすい」って素晴らしいですね。北九州市が評価された多くのポイントのうち、私たちの親世代の「高齢者(65歳以上)」にとって優しい点を教えてください。

田舎暮らしの本では、充実した医療と介護の環境、そして地域の施設が高齢者をしっかりサポートしている点が挙げられていました。地域の市民センターでは寄席やコンサートやカルチャー教室などイベントが盛りだくさんで参加者も多いんです。


なるほど。医療環境について具体的に教えていただけますか?

平成27年4月時点のデータで、北九州市内には90の病院と969の診療所があり、「人口10万人あたりの病院病床数は1987 (※1)」「 救急車が119番を受信して病院に到着するまでの平均時聞は28.5分 (※2)」とどちらも全国トップクラスです。また、救急医療では患者の状態に応じた三段階の体制 (※3)を全国に先駆けて整備しています。

  ※1東京都は948、全国平均は1232
(厚生労働省「平成27年 医療施設(動態)調査・病院報告」より)

 ※2全国平均は39.4分
(消防庁「平成27年版 消防白書」より)

 ※3「比較的軽度の場合」「重症の場合」「命に関わる重篤な場合」に応じた体制

介護施設はどうでしょうか?全国的に特別養護老人ホームの待機者が多いとよく聞きますが。

今のところ公表している数字はないのですが、今年実施したシニア対象の「お試し移住」に首都圏から参加された方々が「北九州の介護施設は東京近郊と比べて施設が立派でゆったりして広い、費用も安い、そして待機者も少ない」と感想を述べられてました。関東の施設も見学されていた方々の感想です。


関東との違いがイメージできます。ところで、「北九州市ならでは」の制度はありますか?他の自治体にはないような・・・。

ありますよ。ひとつは60歳以上が対象の『年長者研修大学校』で、高齢者の学習ニーズに応える15のコース(歴史、文化、国際、英語、写真、陶芸、健康など)がある学校です。4月から翌年の3月までの1年間に40回程度の授業が行われて、受講期間中にスポーツ大会、大学祭、修学旅行などもあります。この学校は小倉北区と八幡西区の2箇所に設置されています。


もうひとつは50歳以上が対象の『生涯現役夢追塾』です。夢追塾では新しい地域の担い手を育成しています。「地域に課題を感じているけれど、どうやっていいか分からない」という方々が集まって、これまで培ってきた経験や人脈を活かした課題解決に向け、研修や事業企画などを行っています。街全体がキャンパスで、塾生同士または若者と互いに学び合う「これまでにない体験型の学びの場」です。6月から翌年3月、平日の夜間に週1回開催されています。


これら2つの生涯活躍を支援する制度は他の自治体にはまだないと思います。

また、それ以外にも『いきがい活動ステーション』というのがあって、ボランティア活動や仲間づくりなど、シニアが参加しやすい活動の情報を集めて提供しています。「何かやりたい」と思ったら、相談員がいますので気軽に相談に行ってみてください。

(その他の制度は、末尾の関連リンク「高齢者のためのサービスガイド」をご覧ください。)


素晴らしいですね。地元の親が、もし「いきがい活動ステーション」を知らなかったら情報収集に行ってみるように勧めようと思います。ところで「北九州市へのUターンも将来の選択肢」という同窓生にお薦めの制度はありますか?

ちょうど今月、「北九州市東京事務所(旧:シティプロモーション首都圏本部)」が有楽町の東京交通会館に移転して、U・Iターンの就職情報や移住にかかわる情報提供を始めたんです。ぜひ東京事務所を覗いてみてください。


お伺いすると何があるのでしょうか?

U・Iターン専任の相談員がいますので移住について何でもご相談ください。就職、住居、生活などの情報提供とサポートを行わせていただきます。登録もしていただくとメールなどで情報をお届けします。アポイントなしでも大丈夫なのでふらっとでもお立ち寄りください。

また、求人情報が閲覧できます。東京事務所には、通常のハローワークの情報に加え、概ね50歳以上を対象とした『シニア・ハローワーク』の情報も閲覧できる専用端末があります。この専用端末はどこのハローワークにでもあるわけではありません。北九州市がシニア・ハローワーク設置の特例の認定を受けたことで東京事務所にも設置できるようになりました。シニア・ハローワーク設置が認定されたのは、北九州市が全国で初めてです(※)。

   ※  平成19年以降、求人は雇用対策法で年齢制限をかけることが禁止されている(「60歳以上」を除く)。そのような中、「概ね50歳以上」の中高年の就職支援に重点を置いたシニア・ハローワークを設置できたのは北九州市が国家戦略特区で「特例」が認定されたため。北九州市は全国初のシニア・ハローワークを今年8月に戸畑区に開設し、10月からはその端末が東京事務所にも設置されている。

「生涯活躍のまち」を念頭に全国に先駆けて高齢化社会への対応をドンドン進めている北九州市。電話で伺っただけでも積極的な「攻め」の姿勢に感銘。(人口と歳入確保の策も当然盛り込まれてたし。)こうなると、将来に向けては何に取り組んでいるのかも気になる。北九州市の国家戦略特区のテーマは「高年齢者の活躍や介護サービスの充実による人口減少・高齢化社会への対応」だ。

ロボットを活用した「先進的介護」で、将来の問題も解決へ。

【お答えいただいた方】
北九州市
企画調整局 地方創生推進室
特区担当 福田修 係長
(八高46期・花尾中出身)

北九州市が国家戦略特区に指定された背景を教えてください。

北九州市が国に提案した「介護ロボット等を活用した先進的介護の実証実装」と「シニア・ハローワークの設置」、この二つの提案が評価されて国家戦略特区になることができたのではないかと思います。


では、介護ロボットの実証実装について教えてください。北九州市が介護ロボットの提案をしたのはなぜですか?

北九州市は高齢化対応に即した街なので高齢者向け施設の協力を得やすいことです。このプロジェクトは稼働中の施設にロボットを導入して実証する必要があって、施設の協力なしでは成り立ちません。 もうひとつの理由は、世界的に有名なロボットメーカーがあることですね。安川電機さんもですし、TOTOさんも取り組んでいます(※)。また、産業医科大学に人間の動きを分析する先生がいらっしゃってご協力いただけます。九州工業大学も産学連携でロボット分野の研究を進めています。

「このように、北九州市は介護ロボットの実証に適したポテンシャルがありますよ」と国に提案して評価されました。

   ※ TOTOはロボット技術を利用した排泄支援トイレの開発を進めている。既にその技術で商品化した『ベッドサイド水洗トイレ』もある。

仮に私たちの親が介護認定されて、その施設に入居することができれば、もうロボット介護を受けることができるのですか?

そうですね。この10月末頃から介護ロボットを導入して実証をスタートする予定です。現在は介護施設で働く方々の動きを「見える化」して、人が行う作業とロボットでできる作業との切り分けなど、作業分析を行っています。ご協力いただく施設は特別養護老人ホームの『サポートセンター門司』と『好日苑 大里の郷』です。



ロボットの目的は主に介護者の負担を減らすことのようですが、介護を受ける側のメリットは何がありますか?

負担の軽減というのもありますが、大きな目的は介護職員が完全に不足する将来の問題への解決策の提示です。これから行う実証実装の結果を踏まえ、「介護ロボットを活用した、これからの介護のあり方」を国に提案できればと思います。もし新しい運営基準を示すことができたら制度改正につながって全国展開につながります。そして、入所者の方にとってのメリットですが、介護サービスの質の向上も目指しますが「どういうことが質の向上にあたるのか」自体を、今後有識者を交えたワーキンググループで議論していく予定です。


近い将来の北九州市のシニアサポートは、介護施設の待機がより少なく、介護サービスの質がより高いものになっていそうだ。やはり、全国に先駆けて。

最後にインタビューにご協力いただいた小田さん、福田さんに八高卒業生の皆さんへメッセージをいただいた。また、末尾にはご紹介いただいた制度のWebページへのリンクや問合せ先を掲載しているので、ご参照ください。


関東在住の八高卒業生の皆さんへ

【定住・移住促進担当 小田聡 係長】
北九州市は、シニアだけでなく子育てやファミリー層向けの環境もとても充実しています。ぜひ新しく立ち上げた「北九州ライフ」というホームページをチェックしてみてください。また、「北九州ライフのFacebook」では、堅い話から柔らかい話まで北九州市の情報を毎日発信しています。「いいね!」をして懐かしい北九州の景色や情報に触れてください。そして、「北九州市に帰ろうかな~」と思っている方は「北九州市すまいるクラブ」への登録をお薦めします。住まいなどの生活に役立つ情報をお届けしたり、引っ越し料金や不動産仲介手数料が割引になる特典がありますよ。

【特区担当 福田修 係長】
北九州市は国家戦略特区の特例を活用しながら、シニア向けに限らず、さまざまな施策を手がけています。インバウンドや国内外の交流促進、創業促進、雇用創出などです。先日も東京都大田区と大阪府に続いて「民泊事業」を行う認定を受けました。郊外の自然を味わえる民泊が市内に登場すると思います。またワインを製造する「ワイン特区」の認定も受けました。「ピンチをチャンスに変えるのが北九州」です。公害のピンチを克服して環境モデル都市にまでなったように、人口減のピンチを克服する取り組みが、より魅力ある街作りにつながっていくでしょう。今回のランキング1位もその途中の成果のひとつだと思います。今後の北九州市にぜひご期待ください。







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