11月4日の日曜日、多摩美術大学(通称:多摩美)の芸術祭に足を運んでみました。
多摩美のグラフィックデザイン学科2年生、八高63期の山田瑞季さんにお誘いのメールをもらい、彼女もブースを設けて作品を展示するというので、秋の陽射しの中、出掛けた次第です。

橋本駅からバスに乗り10分余り、丘陵地帯にある多摩美に着きました。正門を入ってすぐの案内所で芸術祭のパンフレット(特別企画で作曲家の菅野よう子さんのインタビューが6ページもある!A5サイズ、厚さ1センチのオールカラーの「本」です、これは。)を貰い、デザイン棟を目指します。
ゆるい登り道の両側には、学生が自作したものなどを売っているフリーマーケットがずっと続いています。
ポストカードやアクセサリー、スカーフや衣類、文房具や小物など、いろんなものが売られています。
いずれもカラフルな色合いのものが多いのは、美大だからかもしれません。

坂を登り切り、ロックバンドが演奏する舞台のある広場を通って、デザイン科の建物に着きました。
中に入ると1階と2階の吹き抜けの回廊に沿って幅2m、奥行1mほどのブースが並んでいます。
出展している学生がそれぞれのブースにいて、作品の説明をしたり、自分の作品で作ったポストカードなどの小物を販売したりしています。

回廊は、ブースを巡る人たちで満ちています。
吹き抜けにある階段で2階へ上がり、回廊の中ほどに来場者の応対をしている山田さんの姿を見つけました。
来場者の切れ目に挨拶をすると、ちょっと驚いたようでしたが、ニッコリ笑って歓迎してくれました。

山田さんのブースは、グラフィックデザイン科の友人2人と出していて、「一枚の紙からはじめましょう」をキャッチフレーズにして、ブース名は「Hajime」。立看板にはこんなことが書かれています。



”Hajime”とは?

「はじめ紙」という紙のブランドです。
みなさんには個性豊かな「はじめ紙」のなかから自分のお気に入りの一枚を選んでもらいます。

そしてそこからはあなたの思うがまま。

たった一枚の紙、しかしその紙はあなたの手で様々な形に生まれ変わっていきます。

あらゆる多様性を秘めているのです。

わたしたちはそんな紙の魅力を引き出すお手伝いをしたい。
「0」からではなくわたしたちの生み出した紙が創作のきっかけ、はじまりの「一」でありたい
そんな思いからHajimeは誕生しました

奥行1mほどの左右の壁面に3人の作品が3点ずつ展示され、幅2mほどの正面の壁面にはそれらの作品を縮小したり、部分的に切り取ったものがキルトのように展示されています。
その真ん中にはまあるい「Hajimeちゃん」がいます。
吹き抜け側に置いたテーブルには、それらの作品を印刷した紙が売られていて、ブックカバーや小物として使った作例が並べられていました。


山田さんの作品は、金魚と口づけをしている少女を描いた作品とマフラーをしたフクロウと少年(?)を描いた作品、いろんな模様のカラフルなストッキングを履いた足を描いた作品、それに少女とハイヒールやカップケーキなどを描いた作品の4点です。



金魚とフクロウの2点は、しっかりと書き込まれた細密画のような作品で、宙に浮く大きな金魚と金魚とキスをしている小さな少女、大きなフクロウとマフラーでつながる小さな少年の対比が面白く、不思議な世界を作っている作品です。
細かく描かれた金魚とフクロウは、確かに命を宿しているように見えます。
作品を見ている自分の方が金魚とフクロウからその人間性を見られているような、そんな気さえ覚える作品です。


様々な模様のストッキングを履いた足を描いた作品と少女の顔を中心にハイヒールやカップケーキなどをちりばめた作品は、金魚やフクロウの作品から一転してデザイン性の高い作品で、デザインも色もさまざまなストッキングを履いた足が並んで描かれています。
ストッキングの模様と色使いの面白さがアピールします。
私が見ている間にも、数人の女性がこの作品の印刷された「紙」がありませんかと山田さんに尋ねていましたが、用意したものは初日のうちに売り切れてしまったそうで、謝っていました。

少女とハイヒールやカップケーキを描いた作品は、少女の夢を絵にしたような作品。
パッケージ用のデザインを志向した作品かなと思いました。


山田さんは、今回とは違うメンバーとの三人展を下北沢で春に開催しましたが、その時の作品と比べて、また一段と上手くなったのを感じました。
私の素人判断ではありますが、あながち的外れでもないと思います。

山田さんの作品を観終わった私は、キャンパス内を巡って、登山部の小屋でおでんを食べて腹ごしらえをしてからそのほかの建物にも足を向けてみました。
絵やデザイン、造形ものなどいろんな作品が、それぞれに気を発していて、作者の思いをこちらに伝えてきます。
中には美術館や展覧会で展示されていてもおかしくないように思える作品も少なくありませんでした。

陽が傾いてキャンパスが薄暮となるころ、芸術に浸った満足感に満たされながら多摩美を後にしました。

山田さん、誘ってくれてありがとう。
これからも機会があれば作品を見せてくださいね。
私だけでなく、関東誠鏡会にも山田さんのファンは結構いますから、みんなで応援していますよ!

高29 松本勝義