講談師 田辺いちかさん(本名:帆足桃子:高49期)


【撮影 森 松夫】

Profile田辺いちかさん

1997年 八幡高校卒業(高49期)
京都府立大学国文学中国文学科(現:日本・中国文学科)入学
2000年 在学中に中国・長安大学へ日本語教師として赴任
 ※2001年に京都府立大学は卒業
2001年 帰国し、大阪で演劇を勉強
2003年 東京のプロダクションに所属し、舞台俳優と声優の活動を始める
2004年 講談師田辺一邑(たなべいちゆう)氏に弟子入りし、「田辺いちか」として前座をつとめる
2019年 二つ目に昇格

八高卒業後は京都府立大学文学部国文学中国文学科に進学。大学4年の時、姉妹校である長安大学で日本語教師の募集があり、中国に渡る。2001年に帰国し、大阪で演劇を勉強したのち上京し、舞台俳優と声優の活動を行う。2012年講談師田辺一邑師匠と出会い、2014年に弟子入り。2019年、まる5年の前座修業を終え、二つ目に昇進し、田辺いちかとして寄席や演芸場で活動中。大蔵中学出身。



2018年、女性講談師前座修行中の時に、講談への思いとその魅力についてお話を伺った田辺いちかさん。その後、二つ目に昇格されたと言うことで、「同窓生この人」ブログとして初の「その後」を取材。二つ目に昇格してからの活動・心の変化、新型コロナ渦での『今』についてお話を伺いました(現在新型コロナ感染拡大中のため、リアルにお会いしての取材ではなく、メール取材で原稿をまとめさせていただきました)。

※2018年の取材ではこんなお話をしてくださいました。
大学で中国文学を学び、卒業後はフランス演劇をベースに俳優・声優で活動したのち、35歳で講談師に弟子入り。2018年の取材時は前座として活動し、精進を積む日々でした。講談についての思いや夢、楽しみ方などを語ってくださいました。以前の取材の詳しい内容はこちら→http://kanto-seikyokai.jp/?p=8917


まる5年の前座修業を終え、2019年、二つ目昇進。新型コロナ渦に戸惑いつつも生涯現役を目指し、日々精進中。

二つ目になられてからの活動やご自身の変化について教えてください

 2019年3月に、まる5年の前座修行期間を終え二つ目に昇進いたしました。有難いことに、日々新しいお仕事を頂戴し、目まぐるしいまま、あっという間に駆け抜けた1年でした。
 二つ目になり、自分が芸人として、高座の内容にお金を払って頂くという立場になったことで、心持ちはずいぶん変わりました。集客のことも気になるようになりましたし、「お客様の大切な時間とお金を頂くからには、それにふさわしい高座でなければならない。今日の高座の出来が、未来の仕事の量に関わってくるのだ」というプレッシャーを常に感じるようになりました。違う意味でのプレッシャーもあります。同じ『二つ目』でも、1年目と10年目では当然実力も桁違いで、既に売れっ子と呼んでよい二つ目の先輩も大勢いらっしゃいます。そういった圧倒的な先輩方とも同じ『二つ目』というくくりになるわけで。ご一緒させて頂く機会の度、新鮮な驚き覚えると同時に、焦りも覚えます。
 二つ目になって、自分の不器用な性格や苦手な部分や弱点をいやというほど突き付けられることが増えてきました。これらが大変有難い刺激になっています。負けず嫌いな性格で良かったと思います。


不勉強ですみません。前座と二つ目のもっとも大きな違いをわかりやすく教えていただけますか?

 前座というのは基本的に「芸人未満」であり、あくまで先輩の会の裏方の手伝いをし、そのかわりに高座に上がらせて頂いているという扱いです。そこから二つ目になると、ようやくプロの芸人のひとりとして扱われるようになります。自分で宣伝活動をし、仕事を取り、目新しい読み物や工夫に挑戦したり、前座時代と比べ、桁違いに行動が自由になります。ただ『真打』とは違って「あくまでまだ師匠の監督下にある」という立場ですので、色々試して失敗し、学ぶことも許されている、有難い時期だと思っております。前座時代は、多少気が利けば先輩から仕事に呼んで頂けますし、真面目に正直に励んでいれば評価して頂けるという安心がどこかにあったように思います。芸ではなく、裏方の仕事を評価されていたということですよね。


【写真提供 墨亭】


二つ目として、一歩ずつキャリアを積み重ねていた時期での新型コロナ渦。生活はどのように変わられましたか?

 まさに一変しました。緊急事態宣言で、4月5月に予定されていたすべての会が中止になりました。さらに夏秋以降も、これまであった公共の仕事、企業や学校、お寺関係などの催しは、ほとんど全て、中止もしくは延期となりました。これまでほぼ毎日高座に上がれていたのが、突然全くの無職状態になって、あまりのことに1ヶ月はただ呆然と過ごしていました。5月頃から、配信技術を持った方のお力添えなどで少しずつYouTubeなどの配信でご視聴頂ける会が増えてきて、6月以降はしっかりとした感染拡大防止対策の下、都内各演芸場の営業が再開され、小さな勉強会などはポツポツと開けるようになってきました。
 感染拡大防止対策としては、場内の徹底的な換気、ドアノブ、備品等、皆さまがご使用になる部分のアルコール消毒を行っています。受付スタッフももちろんマスクを着用し、またお客様へも手指の消毒、検温、マスク着用、少しでもご体調の悪い場合はキャンセル頂くことをお願いしています。狭い会場の場合、客席と高座の間にアクリル板を立て、飛沫が散るのを防ぐようにしてくださっているところもあります。やはり生で見て頂いてこその芸ですので、各演芸場それぞれ工夫を凝らして、お客様を安心してお迎えできるように努力してくださっています。が、観客数を半分以下に減らしている為、ギリギリの営業です。配信も、スタッフさんの人件費や機材レンタル費、場所代などを考えると、なかなか採算がとれないことが多いようです。
 そんな中、なんとか演芸の火を絶やすまいと応援してくださる方々、また会場に足をお運びくださるお客様にはどれだけ感謝してもしきれません。これからどうなっていくのか、まる切り先が見えない状況ですが、今の自分に出来ることを懸命に励みたいと思います。

大変な状況の中で、いちかさんの心を支えになるものは何でしょうか?

 終演後にお客様から「いいお話でした」「楽しかった」「講談って面白いんですね」と言って頂ける時に勝る喜びはありません。今は終演後のお見送りも出来ないのでなかなか辛いです。
 心に残っているお客様の言葉は「落語は笑える、講談はワクワクする」という一言です。まさに講談は、心の躍る演芸だと思っています。そんな高座をつとめたいです。
 そして、私の最終的な目標は、生涯、死ぬまで現役で高座に上がりたいという、ただその一点につきます。その為に、今やっておかなければならないことはなんだろうと、常に自問自答しています。

最後に同窓生の方へのメッセージをお願いします

 日本中が新型コロナによる大打撃をうける中、ことにエンターテイメント業界への影響は深刻です。幸いなことに、数は激減したとはいえ少しは高座に上がる機会も増えて参りましたが、これからの情勢次第で、いつこの場所がなくなってもおかしくないのだな、と感じています。改めて、一席一席を、非常にありがたく噛みしめております。
 Twitterで、会の宣伝などをツイートしております。たまにYouTube配信の会(有料、無料)などもありますので、インターネットさえ通じていればご自宅からでもご視聴可能です。よろしければ、田辺いちかのTwitterもフォロー頂けましたら嬉しいです。

大変な状況の中、貴重なお話をありがとうございました



【編集後記】

  • 今回はお会いできませんでしたが、人気は健在。新聞にも取りあげられたそうです。

    【【令和2年2月20日 朝日新聞 掲載記事】

  • 二つ目に昇格されても、人柄は変わらず。急なお願いにも関わらず「光栄です」と引き受けてくださいました。
  • 感染拡大防止対策バッチリで寄席も行われています。ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょう。

 

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