北九州市建設局が市政50周年を記念して発行した、市内の土木関連施設を紹介した情報誌「北九州の蔵出し情報誌 DOBOKU 思わず行ってみたくなる130選」という本を発見しました。「若戸大橋」や「新若戸道路」「リバーウォーク北九州」「産業遺産」「橋」など、市内に点在する130カ所の土木関連施設が紹介されています。今回の知っとぉ!は、筆者の独断と偏見による、北九州の土木遺産を厳選してご紹介いたします。帰省の折にぶらりDOBOKU散歩に出かけてみてはいかがでしょうか?
それでは早速ご紹介!
明治時代、鉄道は小倉~大蔵~黒崎を走っていた!
旧九州鉄道大蔵線 尾倉橋梁
1891年(明治24年)、小倉→黒崎間に九州初の鉄道が敷設されました。線路は海側ではなく山側に敷設されました。これは当時の陸軍が海側からの敵艦による艦砲射撃での被害を防ぐために、開業にあたってこのルートを条件にしたとのこと。現在の西小倉駅からは九州歯科大から西へと進路を変え、到津の森の南側から茶屋町、大蔵m八幡東警察署、桃園公園を抜け、黒崎駅へと至る。現在のJR鹿児島本線の戸畑側を回るルートに比べると、確かに海側を大きく逸れています。現在の大蔵公園に大蔵駅があって、黒崎駅に至っていたそうです。
この山側を通る、小倉駅→大蔵駅→黒崎駅のルートは1908年(明治41年)に「大蔵線(おおくらせん)」と呼ばれました。この鉄道線はのちに西鉄電車となる九州電気軌道の開通によって1911年(明治44年)に廃線となりますが、大蔵に鉄道駅があったとは驚きです!
そんな遺構が八幡東区尾倉の住宅街にひっそりと残っています。イギリス積の煉瓦で造られたアーチ橋です。上に住宅があって100年以上経っても使われているというある種不思議な橋です。
所在地:北九州市八幡東区尾倉1丁目
竣工:1891年(明治24年)
槻田川にかかるアーチ橋
旧九州鉄道 茶屋町橋梁
この橋梁もアーチ部には市松模様が、そして壁面には水平に線が描かれている美しいイギリス積みのレンガ橋です。開通から20年後には廃線となり、橋としては短い生涯を閉じました。「九州鉄道」は1987年(明治20年)から1907年(明治40年)に存在した鉄道会社で、九州初の鉄道路線を敷設した、言わば九州の鉄道の起源です。1891年(明治24年)に、門司港駅から熊本駅までレールで繋がったときに列車が通過したのがこの橋梁です。今、この槻田川を跨ぐ茶屋町の周りを見渡してみても鉄道の気配はありません。1901年(明治34年)が官営八幡製鉄所の操業開始ですので、八幡(中学)高校の開校も激動の時代であったことが伺われます。
所在地:八幡東区茶屋町4番内
竣工:1891年(明治24年)
地元の人の想いが寄付となった
春吉の眼鏡橋
紫川の上流、春吉の渡上(わたりあがり)地区にあったので旧名は渡上橋と呼ばれていました。それまでは板を渡しただけの簡単な橋だったのですが、1917年(大正6年)に子守の女の子が転落死したことから、春吉の人々が寄付を出し合って安全に渡れる石造りの二連アーチ橋を建造しました。橋のたもとの石碑には、58人の寄付者名と寄付金額、石工の名前などが刻まれています。石材には輝緑凝灰石など紫川の石が使用されているのが特徴。この橋には流れをよくするために水流圧を軽減するために三角の張り出しのような「鼻先」がついていて、水流をやわらげる工夫など素晴らしい設計がなされています。増渕ダムがない時代、紫川上流は水量も多く流れが速かったのだろうと思われます。
所在地:小倉南区春吉
竣工:1919年(大正8年)
国指定重要文化財になったレンティキュラートラス橋
河内貯水池の南河内橋(めがね橋)
河内貯水池のシンボル、池に架かる「南河内橋」はレンティキュラー・トラス(レンズ型トラス)と呼ばれる建築様式で建造された、日本に唯一現存する鋼橋です(この形式の橋は日本では3例建設されましたが現存はこの1橋のみの貴重な橋だそうです)。南河内橋を含む河内貯水池の土木設計は八幡製鉄の技術者・沼田尚徳氏が設計/建設指導したもので、その技術が高く評価され、2006年(平成18年)に国の重要文化財に指定されました。河内貯水池は官営八幡製鐵所の工業用水施設としてつくられましたが、現在はレクリエーションの場、南河内橋は歩行者・自転車専用となっています。
所在地:八幡東区河内三丁目
竣工:1926年(大正15年)
令和元年土木学会選奨の土木遺産に認定
若松港築港関連施設群
明治時代から大正時代にかけて、石炭取扱量の国内シェア約50%を占め、日本一の石炭積み出し港に。遠賀川流域の石炭は若松を通じて日本や世界に輸出されました。昭和初期に整備された若松南海岸物揚場は、当時の姿をそのままにとどめた面影があります。日本の近代化を支えた「若松」に残る複数の港湾関連施設群が土木学会の「土木遺産」に認定されました。認定を受けた「若松港築港関連施設群」は、若松の▽東海岸係船護岸▽東海岸通護岸▽若松南海岸物揚場(ものあげば)▽弁財天上陸場▽出入(でいり)船舶見張り所跡▽測量基準点の6カ所。北九州市内では河内貯水池、関門トンネルに続き、3件目の認定となった由緒正しい土木遺産です。しかし知名度はいまひとつ?観光地としてアピールして盛り上げていっていただきたいところです。
所在地:若松区本町~浜町
竣工:1890年(明治23年)
取材を通じて、日頃目にする風景に意味があったり、それぞれに歴史があったりすることを知り、土木っておもしろいなと感じた次第です。「若戸大橋」「関門トンネル」「若戸トンネル」などもまだまだ知らないことも多そうです。機会があればまた土木のお話を伺ってみたいと思いました。
【関連URL】
- ストーリーマップ『DOBOKUの本』
http://kitakyushu.maps.arcgis.com/apps/MapTour/index.html?appid=d0811fc8ca574f80b34a8284f49601fc&webmap=13f73862d7b74f85a36109fb8b46b052 - 九州鉄道株式会社
http://www.k-rhm.jp/about/ - 国指定文化財データべース
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/00004164 - 若松港築港関連施設群
https://www.wakachiku.co.jp/data/news/54/news.pdf