株式会社らいおん建築事務所 代表取締役/株式会社 セミコロン 取締役/株式会社 北九州家守舎 代表取締役/株式会社 都電家守舎 取締役/一級建築士
嶋田洋平さん(高47期)


Profile嶋田洋平(しまだ ようへい)さん

1995年 八幡高校卒業(高47期/理数科二期生)
1999年 東京理科大学工学部建築学科卒業
2001年 同大学大学院博士前期課程 建築学専攻 修了
株式会社みかんぐみ入社
2008年 同社を退社。株式会社らいおん建築事務所を設立

<受賞歴>
・国土交通大臣賞 第3回 まちづくり法人国土交通大臣表彰
・日本建築学会教育賞 他多数
<著書>
・ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり(日経BP社) 他多数

八高卒業後は東京理科大学工学部建築学科卒業、同大学大学院修了。2001年から2008年まで株式会社みかんぐみに勤務し、住宅、商業施設、愛知万博パビリオンなどの設計を行う。2008年に株式会社らいおん建築事務所を設立。同時期から小倉魚町の中屋ビルの再生を発端にした、小倉魚町のリノベーションまちづくりへの関わりをスタート。2013年より全国のさまざまなまちでリノベーションまちづくりに携わる。黒崎中学校出身。


2018年11月某日、豊島区雑司ヶ谷にて、らいおん建築事務所代表として活動する嶋田洋平さんを取材しました。建築士としてのスキルを活かし、まちを元気にする活動を続ける嶋田さん。これからの時代のまちの再生=リ・イノベーションについて伺いました。


嶋田さんと建築の出会い・これまでの関わり方について

建築の仕事を目指したきっかけについて教えてください。

高校は理数科で、美術も好きだったこともあり、漠然と何かの設計士になろうと思っていました。進路として建築を意識したのは高2のときです。八高から戸畑の鞘ヶ谷(さいがたに)までゴミを拾って歩く「ボランティア清掃散歩」という行事がありまして、ゴールにあった磯崎新さん※設計の北九州市立美術館の建物を見て「建築をつくるのって面白そう」と思ったのがきっかけです。東京理科大に進んだのは、とにかく東京に行きたかったから。黒崎で生まれ育って、地元の中では都会っぽい生活に触れていることもあり、本物の都会である東京への憧れがずーっとあって。地元の国立大学に進学して欲しかったため、泣いて反対する母親をなんとか説得して上京しました。結局大学院まで進み、アトリエ系の建築設計事務所である株式会社みかんぐみに入社しました。

※磯崎新
大分出身の建築家。北九州市立美術館の他、大分県立大分図書館、群馬県立近代美術館、つくばセンタービル、ロサンゼルス現代美術館、大阪万博お祭り広場を手がけた。


なぜアトリエに?そこではどんなお仕事をされてきたのですか?

型にはめられるのが嫌いなんでしょうね。ネクタイ締めて就活したくないなと。実は大学院修了間際まで就職が決まっていませんでした。アトリエ事務所では一般的な新卒採用はせず、次年度の仕事のボリュームが見える2月3月に募集を始めるところがほとんどで、そのタイミングで建築家志望の若者が滑り込むというのが多くのパターン。私の場合は、その時ちょうどみかんぐみの募集があり応募しました。大手の建設会社や組織設計事務所に比べるとお給料は高くないのですが、「自分は夢に向かっている」と純粋な気持ちで働いていましたね。入ったタイミングもよかった。戦後から高度経済成長期を経てバブルぐらいまでは、日本の産業を建築が牽引する時代だったでしょうし、当時はみかんぐみも事務所は拡大傾向で、僕も最初の2年間で住宅を3件、その後は保育園や中学校の新築を手がけたり、愛知万博でトヨタグループのパビリオンの設計を担当したり、非常に良い経験をさせてもらったと思っています。


昨今のまちづくり・リノベーション事情について

リノベーションに仕事の中心がシフトし始めたきっかけは?

そもそも独立を前提にみかんぐみには入社したこともあり、中途半端に安定してきた自分に疑問を感じて、「今やめないとやめられなくなる」と意を決して独立しました。独立してすぐは、小さなオフィスのリフォームや住宅のリノベーションを中心に仕事をしていましたが、しばらくして小倉の魚町のとある空きビルの相談を受けました。そこで30年間営業していたメインのテナントである婦人服雑貨店が撤退してしまい、空店舗化してしまうのでどうしようかと。ちょうどその頃「シャッター商店街」がメディアで取りあげらてもいたのですが、それを目の当たりにすることになるのです。独立前の最後の仕事では鹿児島市内の閉店したデパートであるマルヤガーデンズの再生プロジェクトに関わったのですが、数十万の人口を抱える鹿児島市、さらには小倉という百万都市の中心部でもそんなことが起こっているというのはちょっとした驚きがありました。東京に出て仕事で全国のいろいろな都市を見てからは、あんなに田舎だと思っていた北九州市が実は都会だったんだと改めて気づいたり、いいところも悪いところも含めて魅力を感じて・・・。そこからですね。まちづくりやリノベーションと深い関わりを持つようになったのは。

街の再生はさまざまな場所で行われていますが、それらとは何が違うのですか?

これまで行われてきたまちづくりは、例えば、古い建物を解体・新築して人気の有名店を誘致するといった手法が主でした。でも、そうした取り組みはほとんど成功していないのが実態。郊外には大型ショッピングモールができていて、古い商店街よりはるかに歩きやすくてきれいで車も駐めやすいわけで、どこにでも同じようにあるチェーン店やショップが商店街に入っても勝てるわけがない。古い商店街や建物には歴史があって、大型ショッピングモールには絶対作れない積み重ねてきた「時間の手触り」がある。歴史を重ねてきたコミュニティこそが街の本当の価値だと思うんです。すでにあるものを最大限に活用し、ここに来なければ手に入らないヒト・モノ・サービスを作り出せば、雇用が生まれ、新しい生活も生まれ、街も生まれ変わる・・・。そうした考えの元で行われた小倉・魚町のリノベーションが評価され、それをモデルに全国に拡げていこうという流れが始まりました。2013年からは全国でリノベーションまちづくりが広がりを見せて、50数都市にまで広がり、今も増え続けている状態です。


■北九州家守舎が手がけたプロジェクト

「メルカート三番街」



「comachiかわらぐち」



「鳥町ストリートのリノベーション」



「ポポラート三番街」



嶋田さんのこれからの野望について

例えば、2020年オリンピックイヤーはどう動きますか?

オリンピックイヤーに「東京ビエンナーレ2020」というイベントが企画されています。東京の北の丸から神田、銀座、皇居周辺のエリアで行う現代美術の祭典です。現代美術によって街を変えていくという取り組みなのですが、そこで私はリノベーションまちづくりのディレクターを拝命しています。今、東京の都市生活の豊かさ快適さの基礎は1964年の東京オリンピックの時に作られたもので、その時を契機に清潔で衛生的な都市生活を手に入れたと思います。そして今も、それらのインフラは私たちの暮らしを支えてくれている。できればそうした都市のインフラを今の時代に合った形でもう一度使い直せないものかと考えています。具体的に考えているのは、首都高速の一部無料区間を公園化するプロジェクト。銀座の真ん中の高速道路でスポーツしたり、お茶したり、佇んだりしてゆったりと過ごすのは素敵じゃないですか。インフラの使い方を変えることでもっと東京らしく世界に発信できると思うし、そこで暮らす皆さんと一緒にやれたら楽しいですよね。


地元を見直すという視点をみんなで持ちたいですね。

若者が内向きになったと言われる日本ですが、それは悪いことばかりではないと思います。さまざまな地方都市のまちづくりの場面で若者と話していて気づいたのですが、生まれた街を見直す若者も増えています。地元でシェアハウスを始めたりカフェを始めた若者が何人かいるんですが、東日本大震災以降、都会に出て自分は本当に幸せなのかを彼らは真剣に考えている。自分のためだけでなく、地元に戻ってやれることもあるんじゃないかとも自分として学んだこともいかせるし町のためにもなるし、と生き方を変えた若者は結構いるいるんですよ。どんな学校に通ったかとかどんな会社で働いているか、といったこれまで良いとされていた価値観が少しずつ変化してきているように感じます。そういう変化に敏感に柔軟にいきていく力がこれからは求められると思っています。


興味深いお話を本当にありがとうございました。




【編集後記】

  • 嶋田さんはとても熱い人。一つの問いに対して期待する何倍もの答を出してくれました。改めて録音データを聞き直すと、1時間あまりのインタビューで嶋田さんが99%お話されていました。
  • 建築事務所はさすがにオシャレ。有名デザイナーの椅子のレプリカやオリジナルデザインのカップなど、素敵なインテリアが溢れていました。まるで図書館のような本棚も本好きにとっては憧れの空間でした。
  • まちづくりの一環としてなんと、食堂(店名:都電テーブル)も経営。インタビュー後にラーメンをいただきましたが、体にも心にも優しいお味でした。
     ※詳細は都電家守舎HPでご参照ください。
  • 今回の取材でリノベーションの意味を改めて知りました。リ・イノベーション=再び革命を起こすことなので、建物に限るのではなく、街や建物のあり方そのものを変えることだったのですね。勉強になりました。
  • これからの時代、賃貸はより借りやすくなる模様。一生の家は必ずしも持ち家がベストとは限らない・・・。住む、暮らすを改めて見直した取材者なのでした。


 

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