塚原克孝さん(高36期)


Profile塚原克孝さん

1984年 八幡高校卒業(高36期)
東京藝術大学 美術学部絵画科油画専攻を卒業後、ゲーム制作会社等を経て(株)SANKYOに勤務、現在に至る
2018年 水彩画作品を集めた初の個展『塚原克孝 水彩画 小品展』を港区青山にて開催
2019年 2回目となる個展『塚原克孝 水彩画の世界』を中央区銀座にて開催

八幡高校卒業後、東京藝術大学に進学し油絵を学ぶ。卒業後はしばらく創作活動から遠ざかっていたが、近年仕事の傍ら趣味として始めた水彩画の作品をFacebook等SNS上で掲載したところ反響を呼び、2018年に東京青山にて初の個展を開催するに至る。翌2019年にも場所を銀座に移して個展を開催し大勢の来場者で賑わう。もうひとつの趣味であるマラソンでは数々の大会に出場。自身が企画した『関東誠鏡会 春の皇居を走ろう!』のイベントも2017年から3年連続で開催されている。高校時代は柔道部と美術部に入部。現在は奥様と2人のお嬢様との4人暮らし。向洋中学出身。


千葉県千葉市の閑静な住宅街。ここに塚原さんが創作活動を行なっている『アトリエ あさま台』があります。
今回は、絵の具の匂いのするこの落ち着いた雰囲気のアトリエにお邪魔して、いろいろなお話をうかがってきました。


運命を決めた松島先生のひとこと

塚原さんは藝大出身なんですね。幼い頃から画家を志していたのですか?

いいえ、全くそんなことはありませんでした。高校時代には「いつかは何者かにはなりたい・・・」というような漠然とした思いはありましたが、具体的な夢や目標があったわけではありません。ただ、きっかけは2年生の時に選択していた美術の授業中、「3年生になってから、いきなり美大に行きたいとか言われても困るからな!」という松島先生のひとことでした。私に対してではなく、授業中に全員に向かって言われた言葉で、先生からすれば突然3年生になって言われても指導が大変だから・・・という理由だったらしいですが、その言葉を聞いて「あ、そういう選択肢もあるな」と真剣に考えるようになりました。
幼い頃から絵は好きで、友達の似顔絵などもよく描いてましたし、スポーツや音楽では無理でも、絵の世界なら「何者か」にはなれそうな気がしたんです(笑)。
長岡秀星さんや生頼範義さんが好きで、自分もイラストレーターに憧れるようになっていきました。


それで美大を選択されたのですね?

はい、でもそんなに甘いものではありませんよね。当然、現役ではどこも受からず、卒業後に博多で一年間美大専門の予備校に通いました。でもこのままでは変わらないだろうと感じて、翌年には東京に出て板橋美術研究所という予備校に通うことにしました。そこで素晴らしい先生に出会い、真剣に学んでようやく東京藝術大学に入学できました。


<油絵:予備校時代の作品>
最近まで優秀作品として予備校にて展示されていました


水彩画との出会い、創作への意欲

学生時代から現在に至るまでのお話をお聞かせください。

大学では油絵を専攻しましたが、まだ将来の夢は漠然としたものでしたね。教職課程を取ることもしませんでした。部活の方は予備校の先生の影響で少林寺拳法部に入りましたね。藝大生と少林寺拳法って意外な感じもするかも知れませんが、部員も結構いましたよ。さすがに楽器を扱う学生は少なかったですが、シャワー室でオペラの歌声が聞こえてくることもありました(笑)。

(笑)・・・それで就職はどうされました?

大学院まで進みましたが、なかなか進路は定まらず、とりあえずTVゲームの製作会社に就職することにしました。スーパーファミコンやゲームボーイなどが流行っていたころですね。当時はまだパソコンを扱える人も少なく、CGでゲームの背景などを描く仕事でした。それなりに楽しかったのですが、それほどヒット作も続かず、数年で辞めてしまいました。
そこからすぐに再就職とはならず、今度は友人たちとアメリカ一周してみようということになり、計画段階ではとても盛り上がっていたのですが、いざ実行の段になると1人減り、2人減り・・・結局、友人1人、つまり男2人きりで渡米しました。現地で車も購入して西海岸からスタート・・・ところが最初の一か月でその友人も帰国してしまい、自分1人だけが残されてしまいました。それでも旅を続けようとしましたが、デスバレーというひどく熱い砂漠のようなところで突然エンジンから煙が出てきて止まってしまいました。本当に怖かったです。仕方なくその車を叩き売って今度は電車で旅をしました。最初は1人で寂しさもありましたが、一人旅には一人旅の気楽さ、面白さがありました。メトロポリタン美術館、スミソニアン博物館、ボストン美術館、MOMA、グッゲンハイム美術館といったアメリカの主な美術館を時間をかけて観て回り、貴重な経験となりました。
旅を終えて帰国してからは、失業保険は貰っていたけど、いつまでもこんな生活じゃだめだ、やっぱりちゃんと働きたいと思い、イラストレーターの仕事を求めて出版社に作品を持ち込んだりしましたが、なかなか採用されず、今度は別のゲーム制作会社に入りました。プレイステーションが流行っていましたね。3Dソフトを使える人が少なくて重宝がられました。でも景気が悪くなり、ここも辞めることになってしまいました。
その頃には結婚もしておりまして、焦りも出てきて就職先を探しました。そしてようやく今の会社に入ったんです。

改めて水彩画を始めたきっかけを教えていただけますか?

ゲーム制作会社にいた頃は忙しかったこともありますし、コンピュータとはいえ絵を描く仕事をしていましたので、それ以外で絵を描くことはありませんでした。ところが今の会社に入って、絵とは無縁の仕事になってきまして・・・そんなときに大学の少林寺拳法部が創部50周年ということでOBが集まる機会があったんです。そこに予備校時代の先生もいらっしゃっていました。先生は昔よりずっと絵を描くようになっていて、実に楽しそうで・・・それで自分も改めて始めてみようと、ドイツのシュミンケというメーカーの固形絵の具を購入したのがきっかけです。
専攻は油絵でしたが、それだとどうしても制作に時間がかかってしまいます。ところが水彩画だと手早く、数多く描くことができるのが良かったです。そして描き上げた作品をFacebookやインスタグラムなどSNSに載せてみたところ想像以上の反響がありました。なかには作品を買いたいと言ってくれる人も出てきて・・・嬉しかったですねぇ。振り返ってみると以前の自分は一体誰のため、何のために描いてたのか、誰と戦っていたのか・・・人と比べ、競うばかりで、届けたい相手に向き合っていなかったことに気が付いていませんでした。今ではただ純粋に誰かが喜んでくれる、認めてくれる、それだけで嬉しくて、どんどん描いてSNSに載せていくようになりました。
そうこうしているうちに関東誠鏡会の事務局長の山本さんに「個展を開いてみない?」と言っていただいて、それで思い切ってやってみました。八高の同窓生を含め多くの方に来て頂いて、本当に嬉しかったです。これからの人生・・・どうなるかまだわかりませんが、絵と寄り添って生きていきたいと思うようになりました。


<水彩画:はじめてSNSにて掲示した作品>

外側から観ると絵は変わる

いい話ですね。でもやっぱり絵はそもそも才能がないと描けないと思ってしまいますが・・・

そんなに難しく考えなくてもいいと思いますよ。たとえば東大に行く人はみんな天才なのか?と言われるとそうではないですよね。それだけの努力をしている人が大半じゃないですか?絵も同じです。伝えられる技術があり、それを知ることで得るものがあり、そうやって向上していくものです。もし絵を描いてみたいと思えば、きっと今からでも始められます。もちろん、技術的なものは習ったほうがいいとは思います。

絵を描くときに意識している視点などはありますか?

外側から観る、反転させて観るということは意識しています。だまし絵の壺があるでしょう?壺を反転させると横顔に見える、みたいな・・・そこにあるものを反転させて捉えてみる。そういう視点を持ってみると自分の絵が変わるようになりますよ。また静物のようなものは実物を観ながら描くのがいいですが、その場で描くことが難しいものは写真に撮って、それを観ながら描いてもいいと思います。タブレットを利用するのも良いかも知れません。趣味としては、いくつになっても続けられるものですから、例えば定年を迎えてからでも是非チャレンジしてみてください!


本日は本当にありがとうございました!



<水彩画3点:瑞々しさを感じる作品>

【編集後記】

  • 塚原さんの作品はインスタグラムで観ることができます。また、作品だけでなく、その制作プロセスもご覧いただけます。
    https://www.instagram.com/at_asamadai/
    *「アトリエあさま台」で検索すると見つけることができます。
  • 塚原さんが創作活動をおこなっている『アトリエ あさま台』は塚原さんのご自宅から500メートルほど離れた一軒家で、ここに寝泊まりしながら作品を手掛けていることも多いそうです。
  • 塚原さんがもうひとつの趣味として数多くの大会にも出場しているのがマラソン。最初のきっかけは会社での駅伝大会に出ることだったそうで、走れば走るほど成果が出てくるし、家族から反対されない趣味で、気分転換になるのがいいですねとのこと。
    前述のとおり『関東誠鏡会 春の皇居を走ろう!』も塚原さん発案の企画です。今年で3年連続開催と、すっかり関東誠鏡会の恒例行事となりつつあります。
  • 関東誠鏡会ホームページの連載ブログ、山本事務局長による『おスミの歳時記』ですが、今月から高36期の「つかる」さんがイラストを担当します。
    「つかる」さん・・・実は塚原さんです!ブログは2か月に1度の更新予定ですので、こちらもお楽しみに!
  • その他、いつも皆さんにご協力いただいております『未来サポート募金』のロゴマークやパンフレットのイラストも塚原さんに描いて頂きました。


 

掲載されたブログに関する皆様からのご意見・ご感想をお待ちしています。
こちらよりお寄せください。