一般社団法人かながわスポーツ・健康づくり歯学協会 理事長
歯科医師
嶋村政博さん(高26期)


Profile嶋村政博(しまむら まさひろ)さん

1974年 八幡高校卒業(高26期)
1984年 大学卒業~勤務医を経て、神奈川県大和市にてシマムラ歯科を開業
2002年 一般社団法人かながわスポーツ・健康づくり歯学協議会発足
2015年 同協議会 理事長に就任 現在に至る

八幡高校卒業後、大学歯学部で学ばれたのちに開業医の道を選択。東京都内で勤務医を3年半ほど経験したのちに神奈川県大和市に歯科医院を開業。神奈川県横須賀市にて歯科医院を開業されている八高16期の杉山義祥さんとのご縁で、一般社団法人 かながわスポーツ・健康づくり歯学協議会の立ち上げに加わり、2015年より同協議会の理事長に就任。スポーツマウスガードの普及啓発活動に尽力している。高見中学出身。


マウスガードといえば、昔からボクシングやアメリカンフットボールの選手がつけているイメージが強いですが、最近になって野球やソフトボールをはじめさまざまな競技の選手が使っている姿を目にするようになってきました。
今回は、一般社団法人 かながわスポーツ・健康づくり歯学協議会の理事長として、スポーツにおける口腔内外傷予防としてスポーツマウスガード着用の重要性を啓蒙されている嶋村さんとお会いして、詳しくお話を聞いてきました。


父の背中を追って歯科医師の道へ

まずは嶋村さんが歯科医師となったきっかけを教えてください。

やっぱり親父の背中でしょうか・・・父は九州歯科大学の研究医でした。自分が小学生だった頃、大学の研究室で白衣を着た父が顕微鏡を覗いていた姿が目に焼きついています。
小学生の頃から大学の研究室にはよく行っていました。というのも、小学校の夏休みの宿題で自由研究があり、たしか4年生のときに『田んぼに浮かんでいる浮草の観察』、6年生のときには『繊維の観察』という課題をやりました。そのとき小学校から器具を借りたのですが、顕微鏡は小さいものしかなく、それで父の研究室に出向いて倍率の高い顕微鏡で拡大して観たり、さまざまな薬品に浸したり、燃やして燃え方や匂いの特徴などを記したりしていました。
もうひとつは小学生の頃に観たアメリカのテレビドラマ『ベンケーシー』の影響ですかね。主人公の姿に憧れました。白衣にもいろんなデザインがありますが、今私が着ている白衣もベンケーシースタイルと言われているものです(笑)。


なぜ神奈川県で開業されたのでしょうか?

大学から関東に出てきました。無事卒業して、さてこの先の進路を決める際に、父のように大学に残るか、それとも開業の道を選ぶかを悩みました。実は大学に残ろうと決めかけていたのですが、当時の教授に睨まれることがあって・・・仕方なく開業の道を選びました。父親の伝手で有楽町交通会館に開業していた先生のところに3年半ほどお世話になりました。その間、いろんな研修会に参加してある程度自信がついたので、縁もゆかりもないこの大和で開業しました。九州に帰ることも考えましたが、親の七光りを避けて自分ひとりの力に賭けてみたくなりました。もうひとつここに決めた理由は都心と比べると安かったからでもあります(笑)。1984年(昭和59年)11月1日が開業日です。この日は一万円札に福沢諭吉、五千円札に新渡戸稲造、そして千円札に夏目漱石が描かれた新札が発行された日でもあり、よく憶えています。

ただ最初はとまどいました。それまで勤務医だったときの患者さんは、有楽町という場所柄、ビジネスマンが多かった。ところが開業した大和ではほとんどが近隣に住んでいる方々で、しかもお年寄りが多かったのです。虫歯に被せものをしたり詰め物をしたりというのは比較的簡単ですが、一方で入れ歯を作るのは難しい。しっかり作ったつもりでも、微妙な加減で使う人に合わなかったりするのです。腕には自信があったものの、患者さんに信頼してもらえるまで4年くらいかかりましたね。それから何よりも大切なのはコミュニケーション・・・患者さんの緊張をいかに解くかを考えて、工夫しながらやってきました。いい時も悪い時もありましたが、早いものでこの地に開業して34年目になります。




八高の縁が生んだスポーツマウスガード普及啓発活動

嶋村さんは『かながわスポーツ・健康づくり歯学協議会』の理事長を務めておられますが、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?

みなさんがスポーツ外傷を予防しながら安全にスポーツを楽しんで健康づくりができるよう、歯科医師としてサポートしていくことを目的として2002年(平成14年)に発足しました。その中で歯科医師が製作したスポーツマウスガード(以下SMG)の普及啓発活動などを行なっています。SMGについては後ほど詳しく説明しますが、実はこの会を立ち上げたのも八高OBなんですよ!横須賀で開業されている高校16期の杉山義祥先生。防衛大卒という変り種です(笑)。神奈川県歯科医師会には各歯科大学同窓・校友懇話会というものがあり、そこで舛添要一先輩が講演をされたことがあったんですね。舛添さんに挨拶に行ったところ、もう一人八高卒がいるよと紹介されたのが杉山先生でした。こんなところに、まさか同業の八高の先輩がいるなんて想像もしていませんでした。そのとき以来、杉山先生が私のことを高校の後輩だからと、各都道府県の会長やらいろんな方に紹介してくださいました。本当にありがたかったですね。
その縁もあって協議会の立ち上げから自分も深く関わってきました。自分自身も今までに長野、新潟、三重、大阪、広島、山口、愛媛、長崎、茨城と出向いて、SMGの講習会を開催してきました。(器材も宅急便で送って)大阪と山口では2回ずつ開催しました。

現在、会員数は200名を超えています。歯科医師はもちろん、コ・デンタルスタッフの歯科衛生士や歯科技工士も会員にいます。このような会は全国で神奈川だけです。杉山先生が会長、そして私が理事長に就任してからは、歯科医師だけでなく歯科衛生士・歯科技工士にもSMGの講習会を毎年開催していますし、日本スポーツ歯科医学会でポスター発表をしたり、特にSMGを使用し始める年代である高校生を中心にSMGの普及啓発活動を行なっています。高校のラグビー部やアメフト部、ラグビースクールの児童・生徒たちのところに出向いて安く提供したりもしています。私たちは、「型を取ってはい出来上がりましたよ」ではなく、実際に選手一人ひとりに、口腔内に入れてもらって、当たる所はないか、発音は大丈夫かと確認と調整までします。ですから、業者が作成したものと違って、手間暇かけてやっています。

今年は、日本ハンドボール協会からの依頼で、U-21の選手22名にSMGを製作しました。そのかいあってか、アジア大会において準優勝しました。また私自身も日本スポーツ歯科医学会公認のテクニカルインストラクター・認定医の資格を取り、学会の代議員をしています。その他、日本近代五種協会の医科学委員、日本スポーツ協会公認のスポーツデンティストの1期生となりました。公認スポーツデンティストは全国でまだ400人足らずで、現在5期生が2年かけて受講している状況です。ちなみに、スポーツドクターはすでに5,000人以上います。

とにかく、来年日本で開催される『ラグビーワールドカップ大会』、そして再来年の『2020東京オリンピック・パラリンピック』に向けて国民・県民の皆さんにSMGを認知してもらうための活動に力を注いでいます。




偶然とはいえ、協議会の会長・理事長がともに八高卒というのは驚きですね!それでは嶋村さんが取り組んでいらっしゃるSMGについて詳しく教えてください。

もとはボクシングのマウスピースからきています。ですから今でもボクシングだけは『マウスピース』と呼び、他の競技では『マウスガード』と呼んでいます。市販のタイプと歯科医師が製作するタイプがあり、前者は500円~2,000円くらいで後者は9,000円~15,000円くらいです。さらにプロ用になると25,000円~30,000円くらいにもなります。市販タイプでよく見られるのは、温めてやわらかくしたものを噛むことによってカタチを作るものです。ただし、口を開けば落ちてしまいますし、厚みもバラツキが出たりします。一方、当然ですが歯科医師が製作するものは自然に外れたりすることはありませんし、厚みも工夫できます。

皆さんがSMGを嫌がる理由に、うっとうしい、話しづらいなどが上位を占めますが、外傷予防に関してはそんなことを言っている場合ではないと思います。特にお子様がスポーツをされている場合、ユニフォームやシューズなどには惜しまず費用をかけてらっしゃる親御さんに対して強く申し上げたいのは、是非ともケガから大切な口腔を守る『お口のライフジャケット』としてSMGを加えていただきたいということです。傷を負ってからでは遅いのです。ネット等でスポーツデンティストの歯科医師を調べることは可能ですし、各地域にある歯科医師会に問い合わせして下さい。とはいえ、チーム内で自分だけマウスガードをつけているというのは、特に子供には抵抗がありますよね。ですからご家族はもちろんですが、指導者や学校などにもっとSMGが認知されていかねばなりません。

勤務医時代に、20代後半の銀行員が診察に来ました。口腔内を診ると入れ歯が入っていて上顎の前歯がありません。「事故にでもあったの?」と聞くと「ラグビーで歯を折りました。これはラガーマンの勲章です!」と言うんです。当時は『魔法のやかん』なるものが全盛で、脳震盪を起こしている選手に水をかけて気合でやっていた時代です。私が小学生の頃は「水飲むな!」とか頻繁に「うさぎ跳びしろ!」でしたからね。今どきこんなことをしている指導者はいないはずですよ。




たしかにそうですね。ところでSMGが義務化されている競技とか、あるいはSMGが向かない競技などはありますか?

まずSMGが義務化されている競技は、ラグビー・空手・ラクロス・ボクシング・アメリカンフットボール・フィールドホッケー・テコンドー・総合格闘技などです。しかし義務化されていない競技でも激しい当たりなどがよくあるので、義務化に向けて啓発していきたいと考えています。
向き不向きで言うと、アーチェリーや弓道のように重心動揺を抑えたい競技や重量挙げには有効ですが、歯を食いしばって走ったり、投げたり、またゴルフのティーショットなどには向いていません。ためしに思いっきり食いしばってティーショットをやってみて下さい。上半身がガチガチに固まってしまい、まずまともに当たりませんよ(笑)。

今夏、金足農業の吉田投手が白いSMGをしていたのは記憶に新しいところですが、あれは下顎の位置決めと外傷予防を兼ねていると思います。女子ソフトボールの上野投手も、その日の調子によって2種類のSMGを使い分けているそうです。
ちなみに学会では「SMGを使うとパフォーマンスが上がる」とは言ってはならないことになっています。全ての人のパフォーマンスが上がるとは限らないからです。


八高の繋がりが人生に大きな影響を与えてくれた

なるほど勉強になります。最後に同窓生の皆さんにメッセージをお願いします。

自分はたまたま、ここ神奈川の大和で開業しました。そこで偶然にも同業の八高の先輩である杉山先生と知り合うことになりました。高校時代はもちろん、出会うまで全く知らない10期も上の先輩です。その方が私のことを親身に考えてくれて、さまざまな「縁」を紹介してくれました。八高の繋がりが自分の人生に大きな影響を与えてくれたのです。6年間過ごした大学での関係でもこのようなことはありません。改めてなんて素晴らしい高校だと感じたところです。関東誠鏡会では総会のほかにもさまざまな活動をされていることも知っています。是非同窓生の皆さんにも積極的に参加して、さまざまな八高OB・OGとの「縁」を感じて頂きたいと思っています。


本日は本当にありがとうございました!




ここで取材は終了しましたが、嶋村さんから「せっかくだからSMG以外のことでも何でも聞いてください」と言って頂きましたので、お言葉に甘えて正しい歯磨きの仕方について聞いてみました。


歯医者さんからの歯磨きのアドバイス

ものすごく基本的なことですが、なかなかうまくできない歯磨きの仕方についてお教えしましょう。普段皆さんはどこで歯磨きをしていますか?ほとんどの方が洗面所と答えると思いますが、これはお奨めしません。洗面所が悪いわけではないですが、どうしても歯磨きの時間が短くなる傾向があるようです。できれば10分間、少なくとも5分間は歯磨きして欲しいと思います。特に寝る前の歯磨きは重要です!
歯ブラシもさまざまな大きさや形状のものがありますが、複雑な口の中で使うものですから、できるだけヘッドの小さなもの、しかもまっすぐなものの方が使いやすいですよ。歯ブラシの硬さは「普通」・・・硬過ぎず、柔らか過ぎずがいいですね。自分で角度を調整しながら2本ずつ丁寧に磨いて下さい。居間でテレビを見ながらの『ながら磨き』・・・つまり座ってじっくり磨くという事をお奨めします。ただその場合、途中でどこを磨いたのかを忘れてしまうこともありますので、最初と最後に磨くところを決めておいて下さい。

それからできるだけ軽くブラッシングすることが大切です。ためしに歯ブラシを手の甲に当ててみてください。軽く当てただけでその部分が白くなるでしょう。これは毛細血管を圧迫しているということなんです。口腔内の粘膜(歯茎)は手の甲よりはるかに繊細なものですから、ほんの軽く触れるくらいで充分です。力で磨くのではありません。歯を磨くと言うよりも、歯茎を磨くことを意識して、毛先をうまく使って下さい。
慣れないうちは、肘をテーブルなどにつけて固定し、手の甲と下腕を一直線にして、横磨きのストロークを小さくした感じで細かく動かすと言えば、わかってもらえますかね!?歯ブラシを持つ時は、親指と中指、そして歯ブラシの柄の端を薬指の付け根部分に当てて力が入らないようにして磨くように指導していますし、歯磨き剤は毛先の先端5mmでいいと、言っています。ほとんどが、吐き捨てているだけですから。
(写真は)前歯の裏側を磨いているところですが、まず、毛先のかかと部分を歯と歯茎の境目の処に当て磨いておいて、そこから縦磨きします。最近では食後30分経過してから磨いたほうが良いという先生もいますが、あまり囚われず、とにかく『食べたら磨く』を習慣化して下さい。また口を濯ぐのも歯磨き剤の薬用成分を流さないよう軽めでいいと思います。うがいだけでは、汚れは落ちません。

もうひとつ、歯石を取るだけでもいいので、年に最低1回は歯医者さんを受診することをお奨めします。虫歯以外に怖い病気として歯周病(歯槽膿漏)があります。脳血管障害や心臓病・糖尿病に深く関係しています。意外と歯の丈夫な人にも多いんです。滅多に歯医者さんに行かないので発見が遅れがちになるようです。歯周病はどんな人でも・・・たとえ歯科医師であっても経年的に進んで行きます。
あとは「たばこ」は要注意ですね!いいことはありません!!!こう言う私も40代後半まで、吸っていましたが・・・!(笑)




嶋村さん、本当にありがとうございました!

【取材後記】

    • 患者さんとのコミュケーションを大切にされている嶋村さんですが、患者さんに対して特に気をつけていることは?との問いに、「歯科医師であれば誰しも言ったことがあると思うのですが、『なんでこんなになるまで放っておいたの!!』という言葉だけは、いまは使わないようにしている」そうです。
    • 1960年代、70年代のアメリカのテレビドラマをDVDで鑑賞することと読書が趣味という嶋村さん。嶋村さんが読まれた本をお嬢様も通勤途中で読まれることが多く、親子で読書感想を話し合っているのだそうです。

 

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