木村昭子さん(高16期)


友人の絵画展にて

Profile木村昭子さん

1964年3月 八幡高校卒業(高16期)
1968年 福岡教育大学卒業
横浜市立中学校に赴任
1971年 子育てのため退職
1980年 養護学校に臨時任用職員として再就職
2000年 認知症老人グループホームに勤務

八幡高校卒業後、福岡教育大学教育学部国語科に進学。大学卒業後は、教師としての第一歩を横浜でスタート。子育てのため一旦退職後、養護学校に再就職。臨時任用ではなく安定して働きたいと思っているときに、近所に出来た地区センターでグループホームのお仕事を勧められ転職。いまも現役です。薩摩琵琶の演奏会を聞きに行き感動したことから入門を決意、現在も続いています。中央中学出身。



中学生の時に国語の授業で暗唱したあの有名な平家物語の冒頭の一節「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり・・・・」いまでも覚えています。古典の物語と薩摩琵琶に親しまれている木村さんに、その魅力についてお話を伺いました。


薩摩琵琶との出会いはいつごろでしょうか?

思い起こせば、子ども時代に絵本で「牛若丸」を読んだのが古典との最初の出会いでしょうか?その後、小学6年生の時の学芸会が、担任の先生がミュージカル仕立てで作成した台本での「勧進帳」でした。登場人物は、主人公の武蔵坊弁慶、その主君の源義経、そして関守の役人富樫。私は牛若丸を演じました。その体験が、義経を好きになり平家物語の興味へとつながっているのだと思います。
福岡教育大学教育学部国語科に進んだのも潜在的な意識がはたらいたのかもしれません。国語の教師として古典を教えるとき、生徒と一緒にカセットテープで「平家物語」など聞きいていました。なんともいえない弦の響きに心惹かれるものがありましたが、その頃は琵琶に触れる機会はありませんでした。
薩摩琵琶と出会ったのは、教師時代から30年を経て50歳を過ぎてからです。偶然、スーパーの張り紙で薩摩琵琶の演奏会を知り、聞きに行きました。初めて見た演奏会では、古典の語りの演目と宮沢賢治の詩をフルートと琵琶の伴奏で語る演目を聞きとても感動しました。それが現在の師である荒井姿水先生(※)との出会いでもあります。そこで自分でも演奏してみたいと思い、たまたま先生の教室が横浜だったこともあって、すぐに入門を決めました。

※荒井姿水
父は薩摩琵琶奏者・錦心流の中谷襄水(1917~89)薩摩琵琶錦心流中谷派襄水会を主宰。姉は俳優 樹木希林。国内外で演奏活動を行い、後進の指導にも力を注ぐ。



薩摩琵琶の魅力はどのようなところだと思いますか?

琵琶には大きく分けて「薩摩琵琶」と「筑前琵琶」があります。筑前琵琶は、三味線を参考に盲僧薩摩琵琶を改良してつくられた琵琶です。楽器やバチが小さく、やわらかく女性らしい音が出ます。薩摩琵琶は、盲目の琵琶法師が演奏する「盲僧琵琶」を元につくられています。楽器やバチが大きく、勇壮で力強い音が出ます。武士階級に愛好されていたようです。 琵琶には合戦の場面をダイナミックに、あるいは情緒的にも演奏することができるので表現は無限です。なんといっても力強い「語り」に魅力を感じます。また、日本書紀や日本昔話の演目も多数あるので、なじみのあるお話もたくさんあると思います。
先生の演奏は自在で幅広いです。お祝い事の演奏などでは曲調を少し明るくしたり、他の楽器とのコラボや親しみやすい詩を語る演目もあります。琵琶の音色と響きの美しさ、さらに語りとのコレボレーションで古典文学、歴史文学への理解も深まり、邦楽の奥深さを模索中です。



▲老人ホームでの演奏の様子

ご自身の演奏活動について教えてください。

題材は「平家物語」や「太平記」などが多く、戦の場面も多いのですが、鎮魂の祈りを込めて語っています。
今のような状況になる前は、横浜の三渓園で春・秋の演奏会を行い、靖国神社での奉納琵琶、先生の演奏のバック演奏などで舞台に出演させて頂いていました。個人でも、正覚寺という小さなお寺での演奏会や老人ホームで演奏させて頂いていました。
私がお寺の広間で演奏するときは、客さんがすぐ目の前にいらっしゃいます。演奏中は基本的には静かなのですが、退屈なときは少しザワザワすることもあります。でも、合戦の場面など物語の盛り上がる場面では、お客様が引き込まれていることが伝わってきて、琵琶にも語りにも熱がこもります。



▲「横浜 三渓園」燈明寺での演奏の様子と演目の紹介

最後になりますが、木村さんが今後チャレンジしたい事は何ですか?

琵琶については、良い演奏が出来るよう上手くなりたいです。ただ、琵琶の美しい音色と響きを出すのは簡単ではありません。琵琶は楽譜もなく、先生の口伝えで覚えるしかないため、記憶力も減退し、指も動かなくなりつつある中高年には厳しいところです。また残念ながら、今は演奏会もお稽古も出来ないご時世というのもあります。とはいえ、いつまで演奏が出来るか分かりませんが、これからもずっと続けていきたいと思っています。
仕事では、グループホームの方たちが飽きずに楽しめる手遊びや手芸のネタ探しはこれからも追求したいです。最近フランス語教室にも通い始めました。フランスに住んでいる孫たちと直接会話ができるといいなぁと思っています。
私は何かを始めるときに、「私にも出来るはず」と思い、出来ないときのことを考えることをしません。私が薩摩琵琶を始めたのは50代でしたから、みなさんも今から何でも始められると思いますよ。



楽しいお話を聞かせていただきました。有り難うございます。



【編集後記】

  • 木村さんには、私が関東誠鏡会総会の当番期だったとき、企画コーナーにご協力いただきました。未だ演奏を聞きに行くことはかないませんが、いつか演奏を聞きに行きたいと思います。
  • 木村さんとのお話では、今回の取材のテーマ以外にも、私の母とこれからどう向き合っていけばいいのかということにまで及びました。とてもいいヒントとあたたかい言葉をいただきました。
  • NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は源氏の物語ですが、きっと平家との合戦の場面もあるでしょう。どんなドラマになるのか楽しみです。

 

掲載されたブログに関する皆様からのご意見・ご感想をお待ちしています。
こちらよりお寄せください。