岩下裕志さん(高35期)


―ご自身がオーナーである古民家民泊「竹生優庵(ちくぶゆうあん)」前で―

Profile岩下裕志(いわしたゆうし)さん

1983年 八幡高校卒業(高35期)
1990年 九州大学大学院卒業
味の素株式会社に入社。食品総合研究所に配属
  ※2005年7月より5年間アメリカ味の素に出向
2015年7月 味の素株式会社を退社
2016年4月 一般社団法人全国古民家再生協会に入会
2017年1月 一般社団法人古民家活用推進協会を設立

八高卒業後は九州大学農学部に進学。同大学院を卒業後、味の素株式会社に入社。食品総合研究所でパン(味の素ベーカリー)やスポーツサプリメントの開発に携わる。2015年に味の素を退社後、宅地建物取引主任者を取得し、不動産会社を設立。2016年に一般社団法人全国古民家再生協会に入会。さらに古民家活用の幅を広げるため、一般古民家活用推進協会を設立。現在は伝統的な旅館・料亭の再生のために奔走中。熊西中学出身。



2021年1月某日、一般社団法人古民家活用推進協会代表理事として、古民家、主に旅館・料亭の利活用を推進する岩下裕志さんを取材しました(オンライン)。日本の歴史ある建物の保存・再生を通して、地方、さらには日本活性化を目指す意義、今後の展望についてお話を伺いました。


「古民家」とはどんなものですか?

日本の古民家事情についておしえてください

古民家とは、一般的に築50年を経過した建物をいいます。さらに細かく言えば、内閣府認可資格古民家鑑定士の中では「築50年を経過する木造軸組工法の伝統構法・在来工法の住宅」と定義されています。古民家は日本各地にあり、先祖代々長く居住されているものもあれば、すでに空き家となって利用されていないものもあります。地方の場合、不便な地域にあることも多く、土地としての価値が低く家屋自体も古いことから(本来の価値とは異なり)資産価値はゼロに近い評価のものが多い状況で、その数は年々減少してきています。最近は、古民家ブームが起こり、地域再生の目玉のひとつとして注目を浴びていますが、改修やメンテナンスの難しさもあり、依然として具体的な活用方法の目処は立っていないのが現状です。
私が代表理事を務める一般社団法人古民家活用推進協会では、全国各地に眠る古民家に光を当て、未来に継承するための利活用を推進し、地域の活性化に繋げる活動を行っています。代表的な活用例としては民泊、別荘、レストラン・カフェなどがあります。また、活用可能な古民家を各地域で確保し、古民家をほしい方へ橋渡しするなどの古民家売買も行っています。


岩下さんと古民家


―築130年の伝統的日本家屋をフルリフォームした竹生優庵。左の写真左側の建物は蔵―

古民家との関わりはどのような形で始まったのですか?

50歳で25年勤めた味の素を早期退職し、何か勉強しようと考えていたところ、知り合いにすすめられ宅地建物取引主任者の資格を取得しました。その流れで不動産会社を作り(※現在は休眠中)、ご縁あって「一般社団法人全国古民家再生協会」に入会し、古民家の魅力にだんだんと惹かれるようになりました。会社員時代にアンティーク好きになり、フランス出張やアメリカ駐在時に色々買い集めていましたから、建物のアンティークである古民家に惹かれるのは自然なことだったかもしれません。本格的にハマったのは、全国古民家再生協会の会合で知り合った滋賀県長浜町で50年近く大工を営む親方にすすめられ、琵琶湖近くの古民家を購入したことがきっかけです。改修が進むにつれ、もっと有効的な活用方法はないかと民泊「竹生優庵(ちくぶゆうあん)」をはじめることになり、その経験から、古民家の利活用をもっと幅広くやってみたいと、一般社団法人古民家活用推進協会を設立しました。実績ができると、長浜市から自治体内の古民家の空き家管理を委託されることになり、次は隣の米原市へと少しずつ活動の場が広がっていきます。そして、今度はその様子を耳にした隣の岐阜県養老町から創業250年以上の歴史を持つ老舗旅館「千歳楼(せんざいろう)」再建の話が舞い込んできたのです。


古民家民泊オーナーの次は、歴史的旅館の再建。なんだかすごい展開になっていますが、ご苦労も多いのでは?

そうですね。竹生優庵と千歳楼では苦労の種類が違うのですが、まあ大変です。例えば、「竹生優庵」の場合はまさに古民家で、200軒ほどの集落の中にあります。そこに民泊を作るわけですから、周辺住民の方にとってみれば静かな生活を壊される心配もあり、かなり抵抗がありました。地域活性のためだと住民の方を説得し、なんとか開業にこぎつけましたが、一歩一歩お互いに歩み寄っている状況ですね。一方、「千歳楼」は資金面での苦労があります。文化的な価値は高いものの建物の老朽化は激しく、再建には1億5千万円もの資金が必要です。しかし、これ以上借金はできないということで、国の助成金や給付金を申請するほか、クラウドファンディングや企業向けふるさと納税などで資金を集めているところです。


古民家の魅力とは


―1771年からの歴史を持つ文化人ゆかりの宿「千歳楼」―

大変な思いをしても残したい、古民家の魅力とは?そして、今後の展望は?

古い建物の評価が低いのは日本ぐらいなもので、欧米では古い建物ほど価値があるとされていて、評価額も高いんです。もともとは日本も「古いものを大切に残す」考え方だったはずなのですが、いつのまにかその価値観が崩れてしまって、世界標準からは少しずれているように思います。だけど、様々な文化や歴史がある古い建物は価値があるから今まで壊されずに残っているわけで、そこにはたくさんのお宝が詰まっています。欧米と日本の価値観には大きなギャップが存在し、そのギャップには大きなビジネスチャンスがあると思っています。古い建物を巡ると蔵があり、その中にほんとのお宝があったりして、宝探しをしているようなワクワク感もありますよ。
今、考えているのは伝統ある旅館・料亭の掘り起こしと再生をさらに推進していくこと。現在、築100年を超える全国の老舗料亭を繋ぐ「百年料亭ネットワーク」とコラボを計画中です。各地の老舗旅館・料亭が、古来からの日本料理やおもてなしを伝統継承し、これからも飛躍を続けていけば、地方都市の活性化につながるはず。そして、いずれは世界中から人を呼びよせ、日本全体を豊かにする力になると考えています。古民家活用推進協会としても、さらに活動の場を広げていく予定です。


最後に、岩下さんが考える50歳からのチャレンジ、そして、セカンドステージの歩き方とは?

定年後の人生をよく「セカンドステージ」と言いますが、今の自分は「サードステージ」だと考えています。僕の場合、人生のサイクルは25年刻みで考えていて、第一が就職するまでの親に養われる25年、第二が自分で稼ぎ家族を養う50歳までの25年、そしてこれからはやりたいこと、興味あることを思いっきりやる三番目の25年です。せっかくなのでサードステージはセカンドステージと全く違うことにチャレンジしてみたいなって思いました。サードステージになって6年が過ぎましたが、今思うのは体力的にも余力があるうちに動いてよかったなということ。後輩の皆さんには、少しでも早く次のステージの準備を始めてもらいたいなあと思います。実際に動けなくても、考えたり情報を集めたりはできますよね。誠鏡会にはお手本になる先輩方もたくさんいらっしゃいますから。ぜひ、今後の人生のための計画を楽しみながらはじめてください。

貴重なお話を本当にありがとうございました。



【編集後記】

    奥様の優子さんも同じ八高の高35期!以下、プロフィールです。


    ―2016年開催の網走誠鏡会で岩下さんが見事ゲットしたビンゴ商品のカニを持ってパチリ!―

  • お二人は高3で同じクラス。
  • 優子さんは高見中学出身。八高卒業後は福岡女子大学家政学部(食物学専攻)に進学。大学卒業後は県内の高校の家庭科教諭に。
  • 1993年結婚を機に教師を退職し、神奈川に移動。管理栄養士免許取得。
  • 関東では八高の大先輩で料理研究家の村上祥子さん(高12期)のスタッフ、㈱ホームメイドクッキングで講師を務める。
  • アメリカ転勤で一旦キャリアは中断するも、ボランティアで地域のアメリカ人に日本食を教える。
  • 帰国後、(株)ホームメイドクッキングに復帰し、現在は社員として本部でメニュー開発等に携わる。

  • 穏やかながら自由奔放な裕志さんとご主人をドーンと見守る優子さん。「ご夫婦で古民家コラボのご予定は?」の質問に、お二人揃って「ありません!」と。漫才のようなご夫婦の掛け合いに、取材中笑いっぱなしでした。※取材には35期の山上さんにも立ち会っていただきました。


    ―当番期(2013年)の関東誠鏡会総会にて。
    夫婦でオークラの料理長と相談してメニューを決めました―

 

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